ハーメルン
黒死牟殿の弟子
第十七話

 無限城。
 鬼舞辻無惨の根城。

 そこで、鬼舞辻無惨は一人、震えていた。

「……よくやったぞ。猗窩座、半天狗、玉壺」

 その震えは徐々に増していき、次第に笑い声を含むようになっていった。

「くくくっ、はははははっ!! 見つけた! とうとう見つけたぞ奴の弱点!」

 全身の血管を脈動させ、一人舞い上がる。

「あの忌々しい日の呼吸の使い手! 奴とあの異常者は! 似ているようで全く違う! 確かに異常者の方が実力は上だが……その分弱点はあの異常者の方が多い!」

 鬼舞辻無惨は全身を震わせ、今までにない程の歓喜の表情を浮かべていた。

「所詮『十二鬼月』など、私がいれば幾らでも再建できる。ならば多少の犠牲を払ってでも、あの異常者を完全に葬り去る!」

 鳴女! と無惨は虚空に向かって叫ぶ。

「今存在している鬼を全て集めろ。そして……上弦の弐、童磨も召集しろ!」

 無惨の声に応えるよう、べんっ、という琵琶の音が鳴り響き、鬼が集められ始める。

「待っていろ異常者め……。私の顔に泥を塗ったことを後悔させてやる」

 鬼舞辻無惨。
 彼が生まれたのは平安時代の頃。
 彼は生まれつき体が弱く、二十歳になる前に死ぬと言われていた。
 そんな彼を少しでも生きながらえるように、善良な医者は鬼舞辻に様々な薬を投与した。
 無惨を思ってのことである。

 しかし改善されない病状に腹を立てた無惨は医者を殺害。
 けれども医者の薬が効いていたことに気付いたのは医者を殺して間もなくのことだった。
 一見、無惨は強靭な肉体を手に入れたかに思えた。しかし問題があった。

 日の光の下を歩けず、栄養となるのは人の肉だけであった。
 人の血肉を欲するのは無惨にとっては何の苦にもならなかったが、昼間の行動が制限されるのは無惨にとって屈辱であり怒りが募っていった。

 彼は強かった。少なくとも今まで自分を追い詰めてきた者は一人もいなかった。
 縁壱という例外を除いて。

 縁壱。神に愛された男。
 無惨は縁壱によって消えぬトラウマを植え付けられ、また多大な屈辱を味合わせられた。
 それは無惨にとって耐えがたき苦痛であった。
 二度と、斯様な事があってはならない。もし次の機会があるのであれば、必ずこの無念を晴らすのだと。

 無惨は心に決めたのだ。

 そして強い鬼を集め、十二鬼月を作り出した。もしまた縁壱のような例外が現れても良いようにと。
 この制度はあまり上手く機能しなかったが……今、当初の目的である例外への対処は最低限こなせている。
 無論無惨に苛立ちはあったが……弟子の弱点を見つけることができ、気分が良かった彼はそれを許した。

「鳴女! 状況はどうだ!」

「はい。既に鬼が約千体と、十二鬼月の童磨様がいらっしゃいました」

「そうか……では、その千体の鬼を私の元に呼べ。少々細工を施す」

「承りました」

 べべんっという琵琶の音が鳴る。
 無惨は何時になく猛っていた。

(待っていろ異常者……貴様は既に上弦の鬼との戦闘を経て、多少なりとも体力が削れている。つまり今が攻め時だ! 貴様は今日、ここで殺す!)

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