第二話
「黒死牟先生! 黒死牟先生のお住まいはどちらでしょうか!? お供いたします!」
「…ついて…くる…つもりか…?」
「勿論! 地獄のそこまでお供いたします!」
「……」
夜の帳も下りた頃。月明かりが差す夜道を騒がしい二人が歩いていた。
一人は一見只人のように見えるが、その顔には六つの目が引っ付いていた。異形の存在、黒死牟である。
もう一人は、特にこれといった特徴のない少年……のように見える人物である。性別は定かではない。
腕から夥しい量の血を流していると言うのに、これを気にする事なく騒がしくしゃべり続けている。
「……」
黒死牟は今も考え続けている。自身の存在に何ら驚く事も慄くこともせず、ただただしゃべり続けながら付いてくる少年のことを。
はっきり言って異常事態である。黒死牟が出会った事のある反応はおよそ二種類。反抗するか、首を垂れるか。後者に対しては慈悲を与える事も有ったが、しかし殆どの相手を地面のシミに変えてきた。
だがこの少年は違った。
黒死牟としても、反抗するでも、首を垂れる訳でもなく、教えを請われたことは初めての事であった。
「……」
故に考える。この少年の処遇を。
と、じろりと少年の身体を一睨みして黒死牟はある事に気付いた。そして、これは使えるとも考えた。
「…貴様…」
「はい! 何でしょうか!」
「…我が剣技…その神髄を…学びたいか…?」
「はい! あれ!? もしかして何か試験のようなものがあるのでしょうか!? 私は既に黒死牟先生の弟子ですので、そんなものは必要ないかと!」
「…む…?」
「え!?」
「……まぁ…よい…」
どこか意識の差を感じた黒死牟であったが、これを軽く流すことにした。
「…であれば…」
黒死牟は瞬時に少年の背後へと回る。そしてそのまま目にもとまらぬ速さで少年の首に手刀を打ち込んだ。
「がっ!?」
黒死牟の攻撃に少年は思わず足をつく。
一体何を……? 少年は黒死牟の動きをしっかりと把握していたため、何をされたか、よりもなぜ攻撃されたのかに疑問を抱いた。
そしてその疑問の答えを、少年はすぐに導き出した。
「…やはり…貴様には光る物が…ある…貴様は…鬼に」
「そ、そう言う事なのですね! 分かりました! これから試験が始まるのですね!」
「…いや…」
「い、意識が遠のいてます! 人を気絶させる程の一撃をこうも容易く放てるなんて! 流石です黒死牟先生!」
「……」
黒死牟は内心慄いた。彼の長い長い人生の中でも、ここまで人の話を聞かない人間に初めて出会ったからだ。しかも悪意ではなく純粋に好意というのが質が悪い。
「あっ、意識が……では……また……後で……」
「……」
黒死牟は別に試験などするつもりは無かった。
この少年は、自身の傷の具合がどれ程のものか理解していない上に、手当もせずぺちゃくちゃと喋りながらずっとついて回った。少年は気づいていなかったが、彼の体はとても消耗していた。このままでは少年は死ぬだろう。
故にとりあえずの手当と、朝日が上がっても問題のない場所まで移動しようと考えていた。
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