5話『就職希望のマインとリンシャン』
<マイン>
いざ店主さんの店へお礼参り! お礼参りってこの使い方で合ってたっけ。
兎にも角にも、わたしの体は非常に弱い。今日も階段を降りただけでこの世の終わりみたいな疲労が襲ってきた。我ながらちょっと異常なんじゃないかな。トゥーリも、近所に住む同年代のルッツだって平気で階段ぐらい降りられるのに。
お店の見習いを申し込むにしても、階段でへばる見習いは要らないと言われるかもしれない。多分。言われそう。うわあ。
体を鍛えないと! わたしはまだ5歳なのでこれからたくましくなるはず! 父さんがっしり系だから!
それはそうと、今日は父さんの肩に乗って香霖堂を目指す。父さんの職場である門から遠回りになるらしいので割と朝早い時間だ。お店、開いてるかなあ。
朝一番でお礼をしに来るというのもどうかと思うけど、他に方法は無い。母さんだって仕事があるし、トゥーリは冬へ向けての薪を毎日採りにいかないといけないから。
「なあマイン」
「なに?」
「俺は殆ど、あの人のことを知らないんだが……あの店主さんは、どういう人だ?」
父さんからそう聞かれて、わたしは考えて言った。
「凄くいい人だよ。見ず知らずのわたしが倒れてて、お布団で寝かしてくれて、お薬もくれて、お粥も食べさせてくれたんだ。お茶も出してくれたし、お店にはいろんな商品があって、幻想……じゃなかった、とにかく凄腕の商人さんなんだって」
「そ、そうか……世話になってるんだなあ」
「うん!」
なにより、本を沢山持っているのが素晴らしい!
あの本棚だけで本好きだってわかる。だって本のこと全然興味ない人は本をあんなに持たないから。
それにわたしを看病する間に家庭の医学みたいな本で確認してくれていたみたいだし、絶対いい人だよ。
あともしよければ……お金とか稼いでから払うから、時々でいいから、お米とか食べさせてくれると嬉しいなあ……
少し昔の日本を切り取った異世界である幻想郷と繋がっているらしいあのお店だけが、きっとこの世界で和食が食べられる場所だと思う。
ただどう考えてもわたしが得るものばっかりなので、店主さんになにか対価を支払えるように考えないと。労働力とか! できるかなあ……体力的に。
父さんに運ばれて香霖堂の前までやってきた。改めて見ても、周りの建物から浮いている妙な作りの建築物だ。
扉に休業の札は……出てない。わたしは父さんから降りて、深呼吸をして扉を押した。
──カランカラン。
澄んだ音のドアベルが鳴り、店の中に入る。
店の中は結構広くて幾つも棚が並んでいる。広い机に椅子が幾つか置かれていて、その上には誰かが持ち込んだのかトランプのようなものがあった。棚の中は妙なぬいぐるみや古いゲーム機が並んでいて、床には旧式のパソコンが置かれていた。なんとストーブまである! いいなあ。
店の中は古い木のような、ちょっとカビっぽくて埃っぽい匂いがする。図書館の奥にある古い本置き場みたいな雰囲気でわたしが好きな匂いだ。
誰か入ったというのに店主さんは椅子に座ったまま本に目を落としていた。うわー! 朝から店で本を読める暮らし!! いいなあ!
ちらりとこちらに視線をやって店主さんは言う。
「いらっしゃ──ああ、マインくんか。それに……」
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