6話”拾い物”
目が覚めたときベルの目の前に見知らぬ天井が広がっていた。まさか実際にこんなことを言うだなんて思ってもみなかったと、ベルは呆然と考えていた。
「って、いやいや!!」
我に返ったベルは慌てて上半身を跳ね起こした。下半身を支える反発は思っていたよりも柔らかくまるでベットの上に寝かされているようだった。いや、事実ベルはベッドの上に寝かされていた。
どこかの宿の個室だろうか。小物などが置かれていないちんまりとした一室である。そこでベルは自分が着ている物に違和感を感じた。
「あれ?」
自分の格好を改めて見ると、それは見慣れない服装。少なくとも自分の持っている服ではなく、どことなく飲食店の制服のシャツが着せられていた。
それに髪もどこか湿っぽく、体もまるでシャワーを浴びた後のようにサッパリとした清潔感溢れた格好。
あのたっぷりと上半身に浴びることとなったミノタウロスの血のミの字も見つからないほどだ。一体いつの間に自分はシャワーを浴び、こんなシャツを着て、宿に泊まったのだろうか。ベルにはその記憶が一切なかった。体中に寒気が弥立ち、もう一度何があったかをベルは思い出し始めた。
「えっと僕はダンジョンに潜った後ミノタウロスに追いかけられて、それで……それで」
あの金髪の可愛い少女のことを思い出すとベルは顔どころか体中が熱く紅くなる。思い出しただけでも心臓が張り裂けそうになるくらいに鼓動を繰り返している。あんなに心惹かれる女性に現実で出会ったのは初めてだと自信を持って言える。
それはまるで夢に出てくる顔も見えないあの少女と出会ったときと同じ、それ以上の衝撃であった。もちろんこんな恋が叶うだなんて……思ってはいない。
「違う違う!あの人のことも大事だけど今はそのあとだ!......僕、あの人から逃げ出しちゃったんだよな」
膝を抱えて体育座りをしながらベルは落ち込む。助けられた恋心と羞恥心からあの少女にお礼の一言も言わずに逃げ出してしまったのだ。問題はそのあとだ。逃げ出した後、ベルはただただ我武者羅に走っていつの間にかダンジョンの大穴から抜け出すことを達成していた。そこまでは覚えている。周囲にいる冒険者たちがダンジョンの中に潜ろうとせず、かといって帰っていくわけでもなく。何か様子のようにバベルに留まっていたのを思い出す。そして当然それだけの人が集まっているのだ、ミノタウロスの血を上半身に浴び、朧げな足取りのベルは嫌でも目立つことだろう。とはいえミノタウロスの血だ。とてつもない異臭を放つベルに誰かが話しかける訳もなく、むしろどこか腫物を扱うようにベルが歩く先から人がいなくなっていった。
そのあとベルがどこに向かって行ったか覚えいていない。
当然のことだが、ベルはファミリアには入れていないしこの街に知人がいるわけでもない。つまりどういうことか。あの時帰る場所などなかったということだ。だというのにベルは今暖かなベットの上で、シャワーに着替えまでした状態で寝ていた。
訳が分からなかった。
「とりあえず起きてみるか」
ベルはベットから降り、とりあえず今どこにいるのかだけ確認しようと朝日昇るカーテンを開けたときだった。
「あぁ!!シルの連れてきた白髪頭が起きてるにゃ!!!」
「え?」
ベルのいた部屋の扉が開き女性の声が響いた。
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