ハーメルン
ダンジョンで誓いを果たすのは間違っているだろうか
前章譚Ⅴ”二つの炎”





「ベル君は、ゼウス様が?」

 アルの腕の中の温もりが目を開き言葉を漏らす。
 その声に力はなく、消え入りそうであったが込められた意志は本物でアルはそっと頷いた。

「そう、ならベル君は大丈夫そうね......」

 ベルは。そう言ったアリアの言葉に込められた言葉がアルも最後の心残りだった。

「大丈夫さ......もしも、アイズが……道を迷ったなら、きっとベルが手を伸ばしてくれる」

 腰にも力が入らなくなったアルはアリアを抱きしめたまま仰向けに倒れる。
 二人が見上げる夜空には星々が輝き、不謹慎にも笑っている家族(ファミリア)に見えた。

「アイズには、何か残してあげられたのかしら」

「……さぁな、それを決めるのはアイズだ」

 ただ、とアルは目を瞑りながらそっとつぶやく。

「それが、呪いにだけは……ならないといいぜ」

「そう……ね」

 アリアの手がアルの胸元に添えられる。
 力ない体でアルの胸元に体を預けて胸元で最後に囁く。



「ねぇアル……愛していたわ」



「……俺も、愛していた」




 自分の胸の中で一足先に力が抜けていく女性を強く抱きしめながら、薄れゆく意識の中、お互いのぬくもりを感じアルたちは自分たちを呼ぶ可愛らしい声が聞こえたような気がした。








 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










「――おとーさん?」

 大鐘楼(グランドベル)の音が鳴り響くキャラバンの荷台でアイズは目を覚ました。
 金色の瞳はまるで寝起き、家で起きたかのように寝ぼけ眼で辺りを見渡す。そこはいつものように柔らかいベッドも、温かく自分を抱きしめてくれているアリアもいない。木の床は固く揺れている。開いた後の荷口から見える空はまだ暗い。

「どうやら目が覚めたみたいだね」

 柔らかい声が聞こえる。気が付けばアイズの後ろに同じく荷台に乗っている3人の影があった。
 小柄な金髪の小人族の少年に、緑髪の美しいエルフの女性、茶髪の髭を蓄えたドワーフの男性。三者三葉の特徴を持つ者たちにアイズは若干の警戒を持ちつつも話しかける。

「ここは……?」

「ここはあの村から逃げる人々のキャラバンだよ。そして僕たちはその護衛を任せられたロキファミリアの団員のフィンさ」

「リヴェリアだ」

「儂はガレスだ」

「逃げる……ッ!」

 アイズはその言葉を聞き、完全に覚醒する。
 無意識のうちに顔を強張らせ、涙を溢れさせながら叫ぶ。悪夢だと思っていた、そんなことないと自分に言い聞かせていた。けれど夢ではなかったと、はっきりとわかってしまったあの光景を。
 炎燃え盛る家の前でドラゴンたちに囲まれ倒れていた少年名前。

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