1.幼憧
数多の島々が浮いているこの世界。この世界には空の民と呼ばれる4種の種族が共存している。
全てにおいて不条理が無いヒューマン。
聴覚が優れ、獣のように素早く活きるエルーン。
手先に優れ、人一倍力を保有しているドラフ。
非力ながらも、恐ろしき潜在能力を秘めているハーヴィン。
この四種の間に歪な関係は無く、互いに長所を活かしながら暮らしていた。
この物語は、トラモントという小島で暮らしていたエルーンの長い長い生の旅路である。
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草木が覆い茂る大自然、目に余るほどの緑。木々はゆらゆらと踊り、小鳥達は声を揃えて囀り飛ぶ。
…なんて事は無く、そこに居るのはひたすら汗を振り撒きながら自分の背丈程の木剣を振るう少年。
身体から滲む汗により密着した服が彼の少しばかり膨らんだ筋肉を目立たせている。そしてエルーンの特徴的な獣の耳と灰白色の髪。
見た目だけで言えば、運動している姿より座って本を読んでいる姿の方が似合うと言えよう。
「ふっ!てやぁ!」
幼さがまだ残る声を張り上げながら、斬り上げの動作から横一閃…そして突き。
この動作をひたすら繰り返していたため、穏やかに木の上に居座っていた鳥達は飛び去り、声の大きさのせいでまともな小動物は寄ってこない。
そもそも、彼は森の中で何をしているかというと…鍛錬である。それも一時間や二時間では終わらない5時間にも及ぶ長時間の物である。手の皮は木刀の握り過ぎで血が滲み、肩や足など筋肉痛どころの話では無い。
何故11歳の彼がそこまで血の滲むような努力をするのかというと、誰にでもある夢の実現の為である。
時は遡って五年前。
彼はただ街を歩いていただけだった。別に何かをしていた訳でもなく、ただの気分転換の散歩だったのかも知れない。だが、周りはそうでは無かった。
ある魔物が住み着き、街の一部を荒らし回ったのだ。
その魔物は人間の3倍はある大きさで、四足歩行の猛獣。とても力では勝てる見込みは無かった。
街の農作物は蹂躙され尽くし、その爪と顎で石すらも砕く破壊力。人間なら豆腐を毟るように砕かれるだろう。
住人は他の島に救助を求めた。しかし、ちっぽけな島にわざわざ構う大国なんて物は無い。
もう諦めて島からの脱出を計画していたのだが、一つだけ救助を受け入れてくれた国があり、その国に従属する騎士たちが現れた。
それからはもう圧巻の一言。
数十人の騎士達は魔法を駆使して相手の動きを封じ込め、相手の急所を確実に叩いていった。
魔物は彼らに手傷を追わせることなく倒れた。
少年はその強さに憧れを抱いた。
恐ろしき化物を寄せ付けぬ勇猛さに。
人々は当然お礼に貨幣や食物を献上しようとしたのだが、彼らの代表者らしき者は断ってこう言った。
『我らの正義に従って動いたのみ。我らは褒美の為に戦うのでは無く、人と世の為に走るのです』
そういって速やかに自分達の国に帰っていった。
少年はその心の強さに憧れた。
少年はこの事柄を受け、彼らのように心身共に強くなり、世の為に働こうと幼い心で決心した。
以上の事柄が彼を愚直なまでに鍛えさせる理由である。
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