ハーメルン
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犯罪者の就職活動②

「あたしはやらなくてもいいじゃん。ママのケチ」
「佐東君に勝てたら彼がパンを奢ってくれるみたいよ?」
「やる~」

訳が分からないままドンドン新展開を迎えていた。
そもそも俺がモカにパンを奢るなんて一言も言っていない。真面目そうに見えるモカの母親も、所詮親子だと言う事なのだろうか。
それとも娘を上手い事利用しているようにも見えなくもないけど。

心の奥底では何を考えているのか分からないのはこの親子の共通点だろう。
モカはマークシートと問題冊子を手に持って俺とは違う机に向かって行った。

別にテストを受けるくらいなら受けてやるけど、しっかりこの行動の意図を教えてもらうからな、と心でモカの母親に言いつけてやってから俺も問題を解き始めることにした。



制限時間は90分だった。
俺はそれなりに時間に余裕を持って解き終えることが出来た。問題数が制限時間の割に多く、体感的には120問くらいあった。
教科は主要5科目と言ったところだろうか?俺は途中で高校を辞めたから知らないが基本的な科目だったと思う。

モカの母親は俺とモカの分のマークシートを回収して機械にいれる。
するとすぐに解答結果が出てきたらしい。モカの母親は俺たちの点数を見比べているのだろうか、交互に2枚の紙を見比べている。

「佐東君、本当に高校中退?大学生のモカより正答率が良いわ」
「うそ~!あぁ、モカちゃんのパンがぁ……」

モカの母親から紙を受け取る。大体9割が正解だったらしい。
チラッとモカの正答結果も見たが、彼女も8割近い正答が出せていた。

てっきり勉強の出来ないバカのような感じに思えたけど、そうでもないらしい。
人は見かけによらないって事だな。それはモカも、俺にも当てはまる事。

「どうして俺にテストをやらせたんですか?理由が聞きたい」
「佐東君はなぜその理由を知りたいの?」
「狙いが無いのにただやらせる……そんな無意味な事、貴方がしませんよね」
「ふーん、佐東君。君は面白いね」

疲れたでしょ?ちょっと休憩して、と言ってモカの母親は俺の前に温かいお茶を出してくれた。
目の前に置かれたコップは無機質なデザインだったが、俺には色々な感情が読み取れた。
こんな不思議な気持ちになったのはいつぶりだろうか。

小さい頃、友達の家に上がらせてもらった時に友達の母親が出してくれたような温かさを感じた。
こんな温かさを感じたのは久しぶりで、俺の心がポカポカしていた。
だけど俺にはそんな感情を抱ける立場の人間ではない。

そっと、ポカポカとした心地の良い感情を心の中にあるドブ川に投げ捨てる。
禍々しい、プラスをマイナスに一瞬に変えるような、そんなドブ川。

「私たちはデザインでお金を貰っているの。デザインは依頼主の一歩先を形にしなくちゃいけない。でも一歩先を形にするには常識がないと話にならないからね」
「……」
「それで、今回の面接の結果を言うね。佐東貴博君。君は……」


アルバイトとして雇えない。
そうモカの母親がまっすぐ俺を見つめてそんな言葉を投げかけてきた。

特に俺は驚きもしなかった。
自分自身否定されることにも慣れているし、モカの母親は直感的なのか分からないが俺に何か違和感を感じたのかもしれない。

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