新たな変化と一筋の赤色①
腰の痛みと、疲れが完全に取れていないのか分からないが身体の節々が痛んでくる。
俺こと、佐東貴博は我が子とは到底思えないような振る舞いをする両親がいる実家では無く、ネットカフェで一夜を過ごした。
あの家に一日帰らなかっただけでガミガミとうるさく言ってくるのが悩みの種だが、今日ぐらいは良いだろう。
背中が妙に疼くのは仕方がない事だ。
昨日、棚から牡丹餅みたいな感じで正社員として働くことになった。
そうなんだけど、出勤時間とか聞くのを忘れていた。
まぁ大体9時、早くても8時30分くらいから始業ってところが多いから若干早めに行けば問題ないだろう。
ネットカフェから出て、昨日面接を受けたあの事務所に向かう。時刻は7時30分。
モカの母親は俺をどの程度の戦力として考えているのかなんて知らない。まぁそれなりにやっていけばいいだろう。
もし犯罪者とばれたらクビにされてしまうのだから。
そんな事を思っていると、なぜか頭の片隅からモカのニヤニヤ顔が浮かび上がってきた。
どうしてこんな時に彼女の顔が浮かんできたのか分からない。朝からあんなニヤニヤ顔で近寄られたら面倒極まりない。
俺は頭を勢いよく掻いて、モカのニヤニヤ顔を記憶の果てに飛ばすことにした。
「あら、早いのね佐東君」
「おはようございます。青葉さん」
事務所に着いてドアをじれったく開けると、すでにモカの母親がいた。
小さな事務所ではあるものの代表者としての自覚があるのだろう、誰よりも早くに来て作業に取り組んでいるらしい。
こんなしっかりした母親で、どうやったらあんなフワフワした娘が生まれるんだ……父親がモカみたいな雰囲気なのかもしれない。
それはそれでキツイな。
「貴方、実家から通ってるのよね?」
「ちょっと訳アリなんですよ。なので今日はネットカフェで一夜を過ごしました」
「ふーん、そうなの」
そんな会話で今日一日が始まるらしい。
モカの母親は俺の言ったことを深堀もせずに、あっさりと流してパソコンを打ち始めた。
俺からすれば深堀されるのは嫌なタイプなので、こういう対応はかなり嬉しい。
チラッとモカの母親と俺の目が合った時も、何かを見透かしているような瞳だった。
「……と思うそっくんなのであった」
「なんでお前がいんの?」
すぐ後ろから聞き覚えのある声がしたから振り向くと、そこにはモカがニヤ~ッとしながら立っていた。
もしかしてモカもここで働いているのか?いや、もしそうなら昨日モカが事務所の外を歩いていた時点でおかしい。
まぁモカに聞いても仕方がないし、興味も無いから聞かないでおく。
そう心で思っているのに感情は正直なもので、気づけば言葉を紡いでいた。
「大学に行くの、めんどくさいからここにいるんだよ?」
「大学に行きたくても行けない奴らに聞かせてやりたいな」
「せっかくこのかわいいモカちゃんが会いに来てあげたのに」
「頼んでねぇよ、そんな事」
「辛辣~」
言っている言葉の割にはニコニコしているモカは、ひょこっと俺の隣に出てきた。
朝早くからモカは一体何をしているんだ。
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