過去と現在を繋ぐもの②
“ほら、しっかり身体を拭かないまま寝るから熱が出るんだよ”
“……ごめんね。お兄ちゃん”
“そんなの良いから早く元気になれよな。ほら、お前の好きなうどんだ。今回はタマゴ入りだ”
“母さんが作ってくれたの?”
“母さんにはナイショでキッチン使って俺が作った!”
“ええ!?そんなことしたら怒られちゃうよ……?”
“風邪を治すためだから大丈夫だって!それとそれ食べたらこのすっごく効く薬置いとくからな”
“うん。……お兄ちゃんはこれからどこか行くの?”
“ああ。よっちゃんとかその辺りと遊ぶんだ。急がないと置いて行かれるからもう行くな?”
“時間無いのに……僕のために、ごめんなさい”
“何言ってんだよ”
“え……?”
“俺とお前は兄弟だろ?世界で唯一の存在なんだから、気にすんな!”
頭の中では、小学校低学年くらいの子供が熱で寝込んでいるところを同じような背格好の子供が看病している映像が壊れかけのオルゴールの音とともにノイズ付きで再生されていた。
どうやら俺が捨て去った過去の思い出が急にフラッシュバックしたらしい。
どうして青葉家の玄関前でこんな事を思い出したのだろう。
頭を軽く左右に振るってから、インターホンをぶっきらぼうに押した。
ピンポーン、という軽そうな音が響いてすぐにドアが開いた。
「はい……あら、佐東君?どうしたの?」
「ちょっとお邪魔させていただいても良いですか」
「もちろん。どうぞ入って」
京華さんが開けてくれたドアから青葉家の家に足を踏み入れる。
そのまま京華さんはリビングに案内してくれた。彼女にとりあえず座って、と言われているように感じたから椅子に座ることにした。
俺の目の前にあったかいお茶が置かれた。
「どうしてそんなに不機嫌そうな顔をしてるの?」
「そりゃあ、無給で働かされたら不機嫌になりますって」
「本当にそれが理由?ま、良いけどたまには素直になりなさい」
京華さんは小さくため息をついてから、俺の向かいに座わりながら頬杖を突いてこっちを見ている。
もちろんそんな視線や愚痴は出してもらったお茶できれいにのどからお腹まで流し込んだ。胸のあたりがポカポカしているような気がする。
それは温かいお茶を飲んだせい?
それとも他の理由があるのか?
「……京華さん、キッチン借りますよ」
「あら、その言い方……私に拒否権はなさそう」
「理解が早くて助かります」
お茶を飲み干してから、左手に持っていたレジ袋からうどんとタマゴを取り出した。
片手鍋に水を注いでからガス台に火をつける。
最近は料理もしていなかったが、慣れた手つきでうどんのスープを醤油やかつおだしを用いて作っていく。
京華さんは頬杖を突いたままふーん、となにやら声を出した。
そして彼女は立ち上がってリビングから出ていくらしい。ただ俺はタマゴを細かく溶いているので振り向くことはしなかった。
「佐東君、モカの事よろしくね。モカは二階で寝ているはずよ」
「はいはい」
「それと月曜日、私のデスクを勝手に漁った罰を用意しておくから楽しみにしててね」
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