ハーメルン
愛柱・愛染宗次郎の奮闘

 『蝶屋敷』
 それは鬼殺隊にとって、なくてはならない場所であり、命を繋ぐ場所である。
 病院の役割を果たす屋敷の厳かに佇む門は、治療を終え任務に向かう隊士や重傷を負った隊士を運ぶために常に開かれている。
 庭の木々は綺麗に剪定されており、周囲には色とりどりの蝶が舞い、その神秘的で安らぐ空間こそ、この屋敷の名の由来となっている。
 この屋敷の主は、蟲柱であり鬼殺しの毒を研究する第一人者、胡蝶しのぶである。
 柱の押しメンは誰だ、と聞かれれば、義勇さんかしのぶさんと答えていた前世の私からすると、彼女のお誘いには簡単にホイホイ乗ってしまうのである。
 若い女の子に呼ばれると付いていってしまうのも男の性と言えるが、後悔はしていない。

 「いつもご足労ありがとうございます」
 「いや気にすることはないよ。 私も様子を見に来たかったからね」

 気遣うしのぶには悪いが、不謹慎でも原作ファンとしてこの場所は好きだ。
 炭治郎たちが機能回復訓練で使った鍛錬場や軒下を見ると聖地巡礼をしている気分である。
 折角だし、一番大きな瓢箪でも割っていこうかな、と考えるとしのぶが立ち止まる。

 「では、私は支度がありますので」
 「そうかい? 私も手伝おうか?」

 いつも作って貰って悪い、と言うとしのぶは何でもないように笑う。

 「お客様は、ゆっくりとお待ちください。腕によりをかけてきますから」

 そう言われると、こちらも期待してしまうのである。
 そんな彼女と食事の用意のために別れ、近くを歩いていた三人娘と神崎アオイに何時もの如く挨拶をかわすと、入院患者のいるタコ部屋病室に足を運ぶ。

 「あ、愛柱様!!」
 「愛染様!?」
 「差し入れだ。 皆で後で喰べるといい」

 私の登場に寝ていた隊士達も身体を起こすが、私はそれを制止して、来る前に買った饅頭袋を机に置いていく。
 原作を知り、今この世界で生きている私からすれば、救えない命やこの鬼殺隊の過酷さは十分に理解している。
 ならば、できる限りこうして何かしてやりたいと、始めたお土産作戦は、隊士の表情から察するに行ってよかったと思う。

 「愛染様、いつもそんなことしていただかなくてもいいんですよ?」
 「まあ、気にしないでくれ。どうせ使い道のない金だからね」

 私の後をついてきてくれたアオイは遠慮しているが、柱と違い隊士の給金が仕事内容からして割に合わなさすぎる。
 それに私自身、現代からこの摩訶不思議な大正時代に生まれ変わったせいか、基本的に食事以外には金を使うことはないし、そもそも一番の娯楽は、柱達と駄弁ることのため金を使うことはあまりない。
 岩柱の悲鳴嶋行冥のように孤児に支援したりしてはいるが、それでも余裕があるので、こうして鬼殺隊の隊士達に対してお土産的なことをしている。
 おかげで、一般隊士からも話しかけられることもあり、関係も至って良好である。
 何より美味しいものを食べて、鬼殺隊全体の士気でも上がれば、鬼の絶滅により近づくことになるのでまさに一石二鳥というやつだ。
 
 「というわけで、これは君達の分だ」
 「い、いつもすみません」
 「甘いものでも食べて、体の疲れを癒すといい」

 萎縮しながらも感謝の言葉を口にして私から饅頭袋を受け取るアオイを見て、とりあえずしのぶに呼ばれるまでの間、隊士達と話でもしておくこととしようと思う。

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