3
現れたのは真っ赤に染まった薄暗い路地の先。
今までにない恐怖に手が痺れ、思わず息を呑む。
呼吸をしようにも、辺りの臓腑から漂う真っ赤な鉄臭い血の匂いが、呼吸を邪魔する。
虹色の瞳。
血を被ったような真っ赤な頭。
「あれー? こんなところで女の子が一人でどうしたの?」
ニコニコと笑う屈託ない笑顔の青年からは、凄惨さしか感じられない。
震える手に後ずさる足を留め、ゆっくりと腰の日輪刀を抜く。
普段通りの動きのはずなのに、やけに身体が重い。
やはり、身体は理解しているのだ。
目の前の鬼は、本当の意味での化け物。
その証拠が、虹色の両眼に刻まれた文字。
『上弦』『弐』
初めて出会う最悪の化け物である。
「鬼殺隊の花柱、胡蝶カナエです」
「ああー、君、鬼殺隊なんだね?」
今、そのことに気づいたと言わんばかりの鬼の態度に、カナエは苛立ちを覚えるが、冷静さを保ちつつ、相手との距離を測る。
「君みたいな可愛いくて優しそうな子が鬼殺隊だなんて、世も末だね。 もしよかったら聞いてあげよう。 話してごらん」
まだ相手には戦意を感じられない。
ならば、一つでも情報を引き出さなければならない。
警戒したまま、相手に言葉を投げかける。
「では、一つ聞きたいことがあります」
「うん? 何かな?」
穏やかに優しく喋る口元に真っ赤な血がこびり付いている。
「貴方は人という生き物をどう思っていますか?」
その問いは、対峙した鬼たちに何度も尋ねた質問でもある。
大概の鬼は、食料と答えており、誰もカナエのほしい答えではなかった。
後悔している、人を食べなくない、人間に戻りたい……そんな風に考える鬼もいるのではないか?
自分自身、甘え考えだと思っているがそれでも考えてしまうのだ。
殺す以外に道はないのか、と。
だが。目の前の鬼は今までの答えとはまるで違っていた。
「あら? 本当に聞いてくるんだね……良いよ、答えてあげる。 そうだね……可哀想な人達だと思っているよ」
鬼の言葉に、カナエは思わず刀を握る両手に力が籠る。
そんなカナエの様子に気づかずに、鬼は上機嫌のまま語り続ける。
「誰もが死ぬのが怖くて、誰もが辛いことを恐れてる……だから俺は皆を食べてあげるんだ。 俺が食べてあげれば、ずっと一緒。 もう、怖くも辛くもないでしょ?」
救っている、という鬼らしい傲慢な考え、いや本人は本当に救っていると思っているのかもしれない。
ならば、本当に哀れで、本当に狂っている。
息を整えて、相手の動きを観察する。
このまま斬り込んでいってもカナエの死は確実である。
ならば、少しでも可能性を模索する、そんなカナエの考えすら、この鬼には通用しない。
「だから、食べてあげるね」
「っ!?」
一瞬で距離を詰めた鬼の両手には、対の扇。
人の身体などやすやすと両断することができる鋭い刃。
花の呼吸・弐ノ型、御影梅。
瞬時の技を放ち、自身の周囲を囲うように放たれた斬撃は、鬼の身体を切り裂くと、相手との距離を取る。
もう少し判断が遅れたら、首筋についた傷口がより深く入っていただろう。
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