問8:窮地に陥った際に助けがやってくる確率を求めよ。また、謎の少女Fが目の前に現れる確率は100%とする。
男は自らに欠けた物を求めるような、歪んだ表情を浮かべる。
……詰んだ。
僕は出来るだけ距離を取ろうとして、でも手も足も動かない。
もうこの幼い身体には体力が残ってないんだ。
理解しつつも、本能的にその解を拒む。
絶望は既に僕の腰元まで来ていた。
足は情けなく震えているし、思考も纏まらない。さっきの鬼ごっこで全て使い果たしてしまった。
女子トイレなら安全、なんて思った僕は正気じゃなかったんだ。
こんなとこ、鍵がある訳でもないし屈強なガードマンが立ってる訳でもない。相手が狂人だということがスッポリ頭から抜け落ちていたみたいだ。
自分の浅慮に腹が立つ……。
でも床を殴る力は無く、握った拳は床へと溢れた。
チェックメイト。
僕は、負けた。
「鬼さん、私を忘れちゃ困るわ?」
………………女の子?
カツリ、と赤色のローファーを鳴すと少女は金髪を靡かせて僕の前へと立った。
「な、何だ君は。邪魔しないで貰えるかな、俺は嫁と帰るんだ」
「……はぁ。これが人間。飲み物以外で見たこと無かったけど、期待外れだわ」
……これが、人間?
まるで、自分が人間では無いみたいな言い草。
「……もしかして君も邪魔しようっていうのか!?やっと掴んだ一縷の縁を!俺の親みたいに、蔑んで止めようとするのか!?」
「ええ。止めるわ。容赦なく。プチリってね」
情緒不安定に上擦った声で叫ぶ男に、目の前の少女は冷たく言い放った。
剣呑とした香りで辺りが包まれる。
この場にいるのに、僕は全く展開に付いて行けていない。
何で、この少女は僕を守ろうとしてくれてるんだ?
この少女はそもそも何者なんだ?
回り始めた思考を嘲笑うかの如く、男は顔を赤くしながらニヤリと嗤った。
何で、ポケットに右手を突っ込んで……まさか!
「……危ない、ナイフよ!」
「流石、俺の心の中を覗けるんだねさとり。……やっぱ俺の嫁だよ君は」
素早くポケットから手を引っ込めると、男の手には予想通り折り畳みナイフが握られていた。
チャキン、という音がしてその鋭利な刃が露わになる。
「ふーん、玩具ね。赤ちゃんにはお似合いだと思うわ」
「良い加減にしろ!これを分かってんのかお前!?」
男は突き出すようにナイフを構える。切っ先は彷徨うようにガタガタと震えているけど、多分怯えているわけじゃない。
目が、完全に濁っている。
危険な薬物を吸引し過ぎてアッパーになっちゃったのかと思うくらい、瞳孔が開いている。
「これが最後通告になるぞ!君が引かなければ、その腸から大事な物を引き抜いてでもそこを通る!そして俺は結婚するんだ!」
「遊ぼうってこと?私そういうの得意だわ。でも手加減出来ないし……まあいっか」
「本当に良いんだな!?じゃあ申し訳ないけど……死ねや!」
男はナイフの柄に左手を添えると、少女の胸を突こうと走り出した。
危ない……!
僕の蒔いた種だ、助けなきゃ駄目だろ!
咄嗟に思う僕と裏腹に、思考では何処か大丈夫だろうという気があったのか僕の身体は理性に抑え付けられていた。
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