〇二 アリアハン城、旅の泉
あたしたちはアリアハン城に来ていた。衛兵から王の間へ案内されると、国王と王妃が待っていた。まずはアベルとティアラから、国王に出発のあいさつをする。アベルの肩にはスライムのチチ、ティアラの肩にはスライムベスのカカが座り、同じように国王の方を向いている。
あたしはモコモコとドドンガと並んで、一歩引いたところからその様子を見守った。国王は何をアベルに伝えたいっていうんだ。
「立派になったのう、アベル。その瞳に、昔とは比べ物にならぬほどの強い輝きがある。悲しみを乗り越えた者のみが真の強さを得るという。そなたは父の死を乗り越え、また強くなったようじゃ」
まったく、偉そうにこのオヤジは……。
ムーアに襲われて腰を抜かしてたあの情けない姿を思い出すと笑ってしまう。あたしが助けなかったら、こいつも宝石モンスターどもに殺されていたっていうのに。
「国王様、オイラたちはこれから聖剣と聖杯を取りに行きます。何か知っていることがあれば、教えてください」
アベルが国王に向かって一歩踏み出した。
「そうか、ついに聖剣と聖杯のことを……」
「聖杯は、ゾイック大陸にあるということだけで、あとは何もわかっていないんです」
王が王妃と目くばせした。そして手元の地図を広げ、一点を指さした。
「聖杯はゾイック大陸のここ、メルキドにある」
ゾイック大陸?
「ガイア海峡を挟んで、アリアハンからすぐじゃないか」
あたしは驚きの声をあげていた。ゾイック大陸といえば、闇のバザールで出会ったミネアの占いに出た、トビーがいるかもしれないという場所だ。
国王は面白そうに笑っている。
「ひっでえな。そういうこと知ってんだったら、オラ達が旅立つ前に全部教えてくれりゃいいのにさ」
モコモコがため息交じりにぼやいた。
「あのころのお前たちはまだまだヒヨッコじゃったからの。聖剣や聖杯のことなどを話してもチンプンカンプンじゃっただろう」
「ええ、まあ、確かにね……」
モコモコは素直に認め、引き下がった。そりゃあそうだろう。あの頃のアベルとモコモコは、ただ腕っぷしが強いだけの無鉄砲なガキだった。いきなりゾイック大陸なんかにでも行ってみろ。あっさりと凶悪な宝石モンスターどもの餌食になっていただろう。そんな素直なところは嫌いじゃないけどな。
あたしはドドンガと一緒になって笑った。
「ティアラ、聖杯は赤き珠の聖女にしか手にすることはできぬ」
「はい、何としても私の手で」
ティアラの眼にも力がこもった。赤き珠の聖女としての使命を全うする決意ができたようだ。この少しの間でよく成長した。ホーン山脈で初めて話したころは、ただめそめそしてアベルにすがることしかできない小娘だったのに。
「国王様、聖剣は天空にあり。そのためには不死鳥ラーミアを蘇らせなければなりません。そのためには四つのオーブが必要です。オイラたちはまだ三つしか……」
「三つ揃ったか、それなら話は早い」
国王はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。
あたしたちは城の地下に案内された。薄暗い、壁際のオイルランプが淡く照らすだけの造りの空間。肌を撫でる空気は、湿気を含み、冷たい。
「旅の泉だぁ……」
モコモコが懐かしそうに言った。目の前には、旅の泉と呼ばれる、渦を巻く小さな池がある。この泉は世界のどこかに存在する別の泉と繋がっていて、これに飛び込むと瞬時に向こう側に行くことができる。
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