②リゼ
宇宙世紀0089年3月下旬
「リゼ、名無しの彼女の体を拭いて着替えさせてやってくれ」
「はーい」
俺はリゼに、未だ個室病室のベッドで寝たままの彼女の世話を言付ける。
今日は患者が多い。
この15番コロニーの宇宙港ドックで事故が起きたらしい。
大きな病院に行けばいいものの。
まあ、訳ありな人間がここには結構いるからな。
ここ15番コロニーの人口は6万人程度、中心部に街を形成し、主には農業や畜産や食品加工などを担っている片田舎のようなコロニーだ。
農作物はこのコロニーやコロニーの周りに浮かぶプラントでほぼ自動で生産されている。
要するに労働者層の人間が人口の主を占めている。
俺の診療所は街外れにある三階建ての一軒家を改装したものだ。
診療所は基本俺一人で切り盛りしているが、12歳になったばかりのリゼにも手伝ってもらってる。
午後の診療を終え、俺は夕飯の支度を始める。
リゼも食器を出したりと手伝ってくれる。
「エドお兄ちゃん。お姉ちゃんなかなか起きないね」
「そのうち起きてくるだろうさ」
「綺麗なお姉ちゃんだね」
「……それよりも、学校の宿題は終わったか?」
「まだだよ。お兄ちゃん後で教えてよ」
「夕飯食った後でな」
「はーい」
リゼは俺を兄と呼ぶが本当の妹じゃない。
俺の本当の妹達は1年戦争で亡くなっている。下の妹は丁度リゼと同じ年頃で亡くなった。
リゼは一年前、俺の診療所に連れてこられた子だった。
しかも、かなり訳ありの子だ。
今はこうして元気良くしているが……彼女はクローン体。誰かのクローンでしかも特殊な遺伝子操作を受けていた。
この子を連れて来た男は、ネオジオンの兵士だったそうだが……、廃棄処分されるこの子を見過ごせなくなり、一緒に脱走してきたらしい。連れて来た男は俺にこの子を託してそれ以降行方知れずだ。
連れてこられたばかりのリゼの腕には識別番号のコードと24番と墨をいれられ書かれていた。
彼女はクローン体でありながら、適性が現れなかったとかで廃棄処分、要するに殺されるところだったらしい。
まじで胸糞悪いにもほどほどにしろってなもんだ。
俺はこの子と一緒に持っていた薬物について色々と調べる。
昔の伝手なども使いようやくわかったことは、どうやら強化人間兵。疑似ニュータイプ兵として作られたクローンだったようだ。
リゼと言う名は俺がつけた名で、リゼはここに来た当初自分を24番と番号を名乗っていたのだ。この子を縛り付ける腕の墨の番号はレーザー治療で直ぐに消した。
当時のこの子は今とは違い、無機質で感情など宿っていないかのような様子だったが、今では明るい良い子だ。
クローンの元になった女性の遺伝子が良かったのか、俺の教育が良かった…ってことは無いか。反面教師にはなれる自信はあるけどな。
何だかんだと、ご近所の方々やここに通院してくる皆が可愛がってくれたのが功を奏したのかもしれない。
無理矢理成長を促す処理を成されていたため、薬物を多量に摂取しなくては生きていけない体だった。しかも通常の人間に比べ寿命が短い。テロメアが短いのだ。
だが、遺伝子治療でそれを何とか解消することが出来た。
今では、日に薬を数個摂取するだけで済んでいる。
そのうち、薬が要らなくなる日が来ることを願うばかりだ。
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