第十八話
翔翼らが半兵衛と出会った翌日。兄重矩始め十数人の家臣を連れた半兵衛は稲葉山城へ出仕すべく山道を進んでいた。
稲葉山城――巨大な山そのものを天然の要塞として改造した山城である。
すぐ北には長良川が流れ、東には恵那山と木曽御岳山。更に西には伊吹山・養老・鈴鹿といった山々。城下町の井ノ口から南へ下ると急流・木曽川が尾張勢の進軍を阻む天然の堀として機能している。
これらに半兵衛の知略に、美濃三人衆ら名将が合わさり。織田軍に立ちはだかる強固な防壁と化していた。
城門を潜ると半兵衛は義龍の側近に城主の間にに連れられ、重矩ら家臣は城内で待機させられた。
「…では、各自手はず通りに」
重矩の言葉に家臣らは、運び込んだ葛籠から武具を取り出すと装備していく。
葛籠の中から現れた翔翼らは、彼らに交じり武装していく。
何故彼らがこの場にいるのかと言うと、話は昨日に遡る――
「それで、安藤殿頼みたいこととは?」
半兵衛の屋敷から離れた森の中で、翔翼は守就へ問いかける。
「その前に、国内では義龍様への不満が日に日に高まっておるのは、そなたらも感じておろう」
「国内の様子を見るに無理もないでしょうな」
「そのことで儂ら三人衆始め家中の者達が諫めようとするも、義龍様は自分に都合の良い御託を並べる者の言にしか耳を貸そうとせん。そのことに血気に逸る若い者らを中心に、実力行使も厭わんと言う声が出始めてのう」
「謀反、ですか?」
光秀の言葉に、守就は然りと頷く。
「止めることはできないのですか守就殿?」
「最早止めることは不可能だ。できることと言えば、流れる血を少しでも多く減らすことだけよ」
無念そうに首を横に振る守就に、光秀は悲しそうに顔を伏せる。元は仕えていた家だけに、見知った顔が多くその者達が血を流し合うことに心を痛めているのだろう。
「実はな、半兵衛に旗頭に立ってもらうよう、儂に説得してもらいとの話が合ったのだが。見ての通りの頑固者でな首を縦に振らなんだ。だが、そうも言っていられない状況となってしもうた。」
「義龍が半兵衛殿を、裏切り者として処断しようとしていることですか」
「ああ、儂はあの子らの両親が早くに亡くなってから、我が子同然に育ててきた。だからあの子を護るために、明日の出仕に合わせ同志と共に義龍様に弓を引くことにした。頼みと言うのはそれに協力してもらいたいのじゃ」
守就の告げた内容に、翔翼以外の者達が息を呑んだ。重鎮が謀反を宣言したのだ無理もないだろう。
「…ですが、そのようなことは彼女は望まないのでは?」
「確かに、それならば自ら処断されることを望むじゃろうな。それでも儂はあの子に生きてもらいたいのじゃ、例え怨まれることになろうともな」
「……」
「無理難題を押しつけているのは理解しており申す。どうか、どうか明日ある若者のためにお力添えを頂きたい」
そう言って守就は、地に膝を着け深々と頭を下げるのであった。
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