ハーメルン
回帰の刃
冷酷

「お前、弱っちィな」

 そう言いながら俺の脚を掴んで、ギリギリと万力のような力で締め付ける正体不明の人型の何か。ぐぐ、と締められた事で骨がミシミシ言っているのが伝わってくる。
 痛みで冷静に考えられない。痛い。痛い痛い! ボキ、と。まるで木の枝でも折るように簡単に圧し折られた俺の脚を、呆然と見つめる。

 その直後に襲ってきた激痛に、のたうちまわろうとするが──それを、顔面を掌で覆われて叩きつけられる事で出来なくなる。頭が痛い。割れそうだ。いや、実際割れてるのだろう。
 クソが、好き勝手やりやがって。そう思うけれど、怒りによって身体が動くなんてそんな事もなく。無防備に、と言うより。指一本動かせない状態で、無様に身体を晒すしかない。

「ゲへっ、女の肉の方が美味いけど──腹ァ減ってんだ。男でも構わねェや」

 そう言いながら、仰向けの俺の顔面から手を離す。そうして、激痛の最中相手の姿を捉えようと視界のみ動かす。

「んじャ──いただきます」

 ガブ、と。
 なんの躊躇いもなく、俺の折れた脚にかぶりついた。

 猛烈な痛み、それが襲ってくる前に。気持ち悪さ──ありとあらゆる不快感を混ぜ合わせた感情を味わった。気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! そして不愉快さが消え失せるより早く、俺の身体を激痛が駆け巡った。
 思わず、大きな声で叫ぶ。自分がどう見られるかなんてとっくに考えていない、恥も外聞も何もかも捨て去った叫び。痛みを、最早痛みとすら認識できない程に痛い。

「うるさァい」

 独特の発音でそう言い、俺の頭を殴りつけてくる。後頭部を強打して、今度こそまともに動けなくなる。なのに、なのに──どうして、意識だけ残ってるんだ。
 いっそのこと、死なせてくれ。苦しい。痛い。辛い。どうして、死なないんだ。

 掠れた声が出る。左足の感覚が、不愉快に染まっていく。ぞわりと、鳥肌が立つだとか。そういう話ではない。自分の身体が千切られ、咀嚼され、喰われている。ソレを、ひたすら受け入れるしかない。気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い痛い痛い痛い──やめて、くれ。

 むしゃむしゃ、ばりばり。
 肉を喰い飽きたのか、骨をしゃぶった後に噛み砕く謎の人型。
 奴が次に、俺の腕を手に取った時。意識が、薄れていくのを感じた。

 ああ、やっと救われる。脳漿を撒き散らす寸前の、死にかけのこの姿で蹂躙されるのが終わるのだ。ありがとう、ありがとう──神か仏か、知りませんが、どうか、どうか。

 祈る様に薄れていく意識に、安堵して──俺は意識を絶った。




「お前、弱っちィな」

 ──なんだ。
 見たことある景色、光景、そして言葉。俺は、何をしていた。何があった。一体どうしてこんなことになっている。こいつは誰だ──ビキリ。
 掴まれていた左足が、圧し折られる。大きく叫び声を上げようとして──咄嗟に顔の前に腕を出す。大きな掌が俺の顔を掴もうとして、それを防ぐように左腕を伸ばす。

「あァ、邪魔だな」

 そして、腕を掴まれ──またもやへし折られる。
 あまりの激痛と、色々混ざって理解不能な現実に脳がショートする。なんだ、何が起きているんだ。なんで俺は、こんな事になっている。俺は、死んだんじゃ無いのか。死んでないのか。まさか、地獄なのか? 無限に繰り返すだけの地獄に、俺は突き落とされたのか? 

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