下弦の壱・毒鬼
山を歩き回り、鬼を探す。一応俺が一人と、胡蝶姉妹二人組で別れた。鎹鴉に連絡を任せるため、上空を飛んでもらってる。木々の隙間から溢れる光が眩しい。時折風が吹き、葉が揺れる音が靡く。
こうしていれば、何もない平和な山。自然現象と、山の音。この二つのみが折り重なって、心地の良い音楽を奏でる。
だが、この山には邪魔者がいる。
探らねば。
人を喰らう悪鬼を。
少しだけ、水の流れる音が聞こえる。
その音を逃さない様に、足音を消して歩く。鬼の膂力をもってすれば、正直なところ洞窟なんて作り放題だし隠し放題。だが、それはないと思う。
わざわざ鎹鴉が洞窟と明言したのだ。ならばそうだろう。普段方角しか言わない鎹鴉の答えだ、頼りにしない理由がない。
山に洞窟。
あり得る可能性としては、人が迷い込みそうな洞窟。休む場所になる様な、そんな場所。そして、山の中を流れる川まで辿り着いた。ここから先の何処か、近くだろうか。
川の水を見る。特に異常な点は無く、魚が生息できるくらいには問題ない。生息していても問題ないことはあるが……陽が出てる内は血鬼術を警戒しなくても良いだろう。
鬼の血は日に触れれば蒸発する。それは破られることのない、絶対的な鉄則だ。
川を登る。真っ直ぐ続くこの川に沿って、不自然な岩や切り立った丘を探す。卑怯な鬼のことだ。どうせ不必要な時は隠れているのだろう。お前たちのやることはわかりやすい。
……見つけた。洞穴だ。人間が一人入れるかどうか、そのくらいの大きさ。屈めば入れるだろうが、この大きさは……小さいな。身体の大きさを弄れる鬼か?
一先ず、中に入る。中は暗闇だし、大きさがどうなってるかすら分からない。恐怖が沸く──が。抑えつける。大丈夫だ。俺は死なない。死の恐怖など感じない。恐れは無くせ。
ていうか、広げれば良くないか?
危ない、無駄に死ぬところだった。冷静に行こう、冷静に。
全集中炎の呼吸・伍ノ型──炎虎。
轟音が響き、洞穴が正体を現す。
大きな広場の様に中は空洞で、この山の中にどうやってこんな大きさを作ったのか気になるくらいだ。鴉を呼び、カナエ達に伝える様に言ってから中に入る。
臭い。臭いが充満している。
死肉の匂い、腐った匂い、血の匂い──不愉快だ。
耳を澄ませば、ぐちゃぐちゃと小さくか細いがなにかを咀嚼する様な音が聞こえてくる。その方向へと歩みを進める。
目は慣れた。見える。至る所に散乱する花や頭部を見るに、この鬼は相当力を付けている。鬼殺隊の隊服を纏った手足が落ちていたり、既に相当数の被害が出ている様だ。
音が最も大きく響く場所まで、辿り着いた。
ああ、臭うなぁ。臭い匂いが鼻を貫く。
日輪刀を構えて、歩みを進める。無論、歩く音は立てない。
「……ぇ……っ……めぇっ……」
僅かに声が漏れている。
俺に背を向けて、何かを一心不乱に貪る鬼。大きく隆起した筋肉は、後ろ姿だけでわかる凶悪さを秘めている。このまま気付かれない間に、斬ってしまおう。
全集中、炎の呼
視界が変わる。回って、地面と身体が平行になっている。身体から力が抜けて、地面に倒れ伏す。指一本、動かない。なんだ、なんだこれ。
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