怪物同士
──痛みが巻き戻る。
思わず声を出しそうになりつつも、頸を斬り落とした勢いをそのままに後ろに跳ぶ。呼吸を乱すな。整えろ。少なくとも、もう一体──敵は二体以上いる。
頸が落ちたままずるずる動く怪物と、木から飛び降りてきたもう一体が並ぶ。
──……これは中々、キツイ。
相変わらず幻痛の様に痛む傷のあった場所を抑えつつ、日輪刀を構える。
──全集中・炎の呼吸。
頸を落として駄目なら、全部切り落とせばいい。俺は一番最初、そうやって生き残ったはずだ。
なりふり構うな。動けなくなるまで殺し尽くせ。それが俺の生き残る、唯一の道筋なのだから。
──壱ノ型・不知火。
踏み込む。一の踏み込みで大地に罅割れ、二の踏み込みで急加速。既に頸の無くなった怪物へ向けて、胴体を二つに割るために刀を振るう。
──ガ、と。直前で何かにひっかかる 。なんだ、何に引っかかった──ずぶり。
俺の腹を貫く爪。もう一体の、攻撃。
クソが、次は、おまえから──
──痛みが巻き戻る。
ならば、そのまま反転して無傷の方を斬る。斬り落とした直後、頸のなくなった怪物を蹴り飛ばす。前方に飛んで行った頸無しを無視して後ろから近寄ってきているはずの無傷に振り返る。既に目の前に迫った猿の顔と、虎の手足に驚く。思わず動作が遅れ──
──痛みが巻き戻る。
頭を、左右から握られ潰された。ぐわんぐわんと歪む視界を捩伏せつつ、先ほどと同じように頸無しを蹴り飛ばして後ろへと抜刀する。
──弐ノ型・昇り炎天。
斬りあげと振り向きを同時に行うことで、先ほどの攻撃に対処する。迫り来る顔面を避けるように上体を予め逸らして、潰そうとしてきた両腕を回避した。立ち上がる形で狙ってきているので、当然この怪物は四足歩行から二足歩行に切り替わっている。そこを狙え。頸を狙って駄目なのならば──身体を半分に断ち切ってやる。
ザク、と。
股と言っていいのだろうか。足と足の間に日輪刀が突き刺さる。斬り上げろ。力を込めろ。呼吸を乱すな。ここで断ち切るのだ。
重い。めちゃめちゃ重い。どうしようもない岩を相手にしているような、そんな感覚。だが──諦めない。ここでお前の胴体は分割してやる。声を上げながら、腕に力を全力で込める。ここが正念場だと、腕がブチブチ音を立てるのも気にしない。
ミチミチと音を立てながら、日輪刀が進んでいき──振り切った。
その勢いを保ったまま、頸無しが接近してくることを読んで上段の技を繰り出す。
──伍ノ型・炎虎。
唸れ。心よ、奮い立て。
勇敢に吠えろ。無謀に攻めたてろ。炎が、捲き上る。まるで世界が焼けているのかと錯覚する程の炎。燃えろ。盛れ。
予想通り、振り向いたその先に迫り来る怪物。一度やられた事は、俺は覚えているぞ。それが痛みを伴うものならば、尚更な──! 思い切り、振り下ろす。頸の断面に突き刺さった日輪刀は、なんの躊躇いも無く怪物の身体を半分に切り分けた。
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