ANGUIRUS ~King of the Monsters~
アンギラス――それは、極東の島国で確認された大怪獣の一体だ。
全長は150メートル、体高は60メートルにも及び、推定体重は約5万トン。
確認された国では元々「護国聖獣」として祀られていた伝説上の存在だったのだが、隕石の衝突後地底から姿を現し、実在を証明したのだそうだ。
この馬鹿げた体格だけでも条理を超えたとてつもない存在であることが窺えるが、アンギラスにはさらに特殊な能力があると言う。
『アンギラスは冷気を操る氷結の龍です……かの怪獣が歩いた地は、経緯も季節も関係なく極寒の地に変貌すると言われています……』
まるでファンタジーゲームの魔法のように、氷の力を操ることができる怪獣。平和な世界で暮らしていた時であったなら大いに好奇心が惹かれたであろう超常の能力であるが、現実に存在する生き物が持つ力としてはあまりに物騒極まりない。ほとんど神の御業である。
あの怪獣が所かまわずその力を振るわない温厚な性格であれば良いのだが、蜘蛛怪獣を屠った際に披露した凶暴さを見るに、その可能性は望み薄か。
『しかし、あの怪獣は東方の守護神だった筈……何故このインファント島に……』
「守護神? ってことは、モスラと同じでいい怪獣ってこと?」
……おや? 守護神とはこれまた意外にも期待の持てそうな単語が出てきた。
そんな吾輩の思いと同様のものを抱いたモラが希望的観測からそう訊ねるが、ベラは緊張に強張った顔のまま神妙に答えた。
『……風の噂では、守護する地を脅かそうとする存在は容赦なく殺し尽くしたという話を聞いたことがあります。他の怪獣であろうと……人間であろうと』
ベラは直接見たわけではない、と補足した上で、かの怪獣の生態を告げる。その内容はやはり温厚とは言い難いものだった。
アンギラスとはあくまでも土地の守護神であり、そこに住む人間の味方とは限らぬわけか。
しかしそれならば、こちらから手出ししない限り直ちに危険はないのではないかと楽観的な考えが湧いてきたが……だからと言って放置していい存在だと思えないこともまた事実だった。
『いずれにせよ、その力は強大です。既に怪獣に溢れているこの島の生態系すら、たった一体で崩壊させるほどに』
流石にあのような惨殺風景を見せつけられて呑気に構えられるほど、吾輩も間抜けではないつもりだ。
あのアンギラスという怪獣がどのような性格であろうと、有り余る力を持つ存在はそれだけで警戒するに当たる。アンギラスにその気があろうとなかろうと、吾輩たちは怪獣の身じろぎ一つで踏み潰されてしまう弱き存在であることが、なんとも世知辛い問題だった。
……しかし、なんだ。
あのアンギラスの姿を見た時から、心なしか吾輩はこれまでにない肌寒さをこの身に感じていた。
始めは圧倒的な存在感を放つ怪獣を前にした怯えから来る感覚だと思っていたのだが、この冷気はどうにも五感を持って吾輩の身体をブルブルと震わせていた。
それこそ今こうしてモラの腕に抱えられ、人の温もりを感じていなければ凍えて動けなくなっていると感じるほどに――寒い。
「くしゅんっ……」
モラが、可愛らしい声から控えめにくしゃみを放つ。
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