Number.09
「……目的は何なの?」
十数センチに満たない距離の、その裂けた口を前にして立花響はそう聞いた。聞かれた当人であるツギハギは、口を閉じ、退屈そうに彼女を見つめている。
「"どうして"の次は"目的"ときたか……学校の先生みたいみたいだな」
「はぐらかさないで! 答えてよ、なんでこんな――」
「そんなことより」
ツギハギは響の言葉を遮って、向こうの方へと目を向けた。それにつられ、響も同じ方向を見る。そこには、さっきだったクリスと翼が、お互い睨み合っていた。
「そろそろ始まるぜ。あっちはもうしびれを切らしちまってんだ」
「――! ダメ!」
そんな二人を見るや否や、響はその方向に走って行った。それを見て、ツギハギは少し困ったように手を広げ、しかしこらえるようにクツクツと笑い出した。
「……躊躇なく止めに行くんだもんな。ああ最高」
誰も聞いていない中で、彼は笑いをこらえながらそう呟いた。
ツギハギがそんな風に鑑賞しているのも気にせず、クリスと翼は互いに構えた。先に口をきいたのはクリスだった。
「アンタ、この鎧の出自を知ってんだろ? だからそんな怖い顔なんだ」
「……2年前、私の不始末で奪われたものを、奪われた命を、忘れるものか」
何とも皮肉な巡り合わせだと、風鳴翼は思考する。奏を失った原因と、奏の残した聖遺物。両方が時を超えて再び目の前に現れるなど、なんと残酷なことか。しかしそれでも、その残酷は今の私にとっては心地が良い。翼はそう思わずにはいられなかった。
「やめてください翼さん! 相手は人です、同じ人間なんですよ!」
そう言って翼にしがみついてくるのは響だった。翼はそんな彼女に対し、何を言うでもなく、ただ言いようのない感情が入った目向けた。
「……戦場で何をバカなことを」
「翼さん……」
「アナタだって、例外じゃないのよ」
そう言って翼は、響を突き飛ばした。
「――あ!?」
そしてちょうどその時だ。
「よそ見とは余裕じゃねえか!」
そんな声と共に、紫のムチが翼の目の前に迫ってくる。
「くッ――!」
すんでのところで翼は避けた。彼女が一瞬前までいた場所は、瞬く間に地面が痛々しくえぐれる。もし翼が響を突き飛ばさなかったら、今この瞬間、響はあの地面の代わりになっていただろう。起き上がった響はその抉れた地面を見てそう思い、身震いした。
「へええ、こりゃまたすごい迫力だ」
いつの間に響の傍まで来ていたのか、とにかくその場に立っていたツギハギは、二人の戦いを面白そうに見ながらそう言った。響はツギハギを見るが、彼はそれを意に介さない。
「さて、あの二人のどっちかが斃れたら、次はこっちに来るぜ。さて、最後に立ってるのは誰かな?」
俺は君だったら嬉しいけどね、と、ツギハギは面白そうに響にそう付け加えた。響はそんなツギハギに対して、悲痛ともいえるような表情で、再びこう聞いた。
「なんで……」
それを聞いて、ツギハギはため息を吐いた。
「……さっきから、いや最初に会った時からか? ずいぶんと理由にこだわるじゃないか。そんなのが、そんなに重要か?」
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