ハーメルン
東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm.
第11話 アギトと八咫烏
地霊殿の一室。この屋敷の当主であるさとりの部屋は、客間ほどの広さはない。それでも十分な広さが設けられており、薄暗さは部屋の主同様、微かな陰鬱さを感じさせる。机を彩る孤独な薔薇が、さとり自身を表しているかのようだ。
翔一がこの部屋に招かれてからすでにそれなりの時間が経っている。その時間はすべて、互いの疑問を打ち砕くために流れたもの。
もっとも、翔一が口を開く必要はほとんどない。こちらから投げようとした問いも、向こうから投げられた問いへの答えも、どちらも見透かされてしまっているのだから。
「あんまりよく分かってませんけど、つまりさとりさんも、お空ちゃんたちも、みんな妖怪……ってことですよね? なんか、すごいなぁ……! 俺、妖怪の人って初めて会いました!」
幻想郷について。妖怪について。そしてこの地底世界について。さとりは先ほどの戦いで翔一が抱いた疑問に丁寧に答えた。その心を読み、彼が疑問を抱いたことが分かったうちから次々に答えていくため、少ない時間で多くの情報を交換できた。
アンノウンと呼ばれる二体の怪物に放った弾幕といい、彼の前で妖怪の力を使ったことは失敗だったかもしれない。彼の心を埋め尽くす幻想への疑問が、さとりの知りたい情報を覆い隠し、邪魔をしてくる。それらを解消しないことには、目的の情報は得られそうになかった。
「普通、外来人は妖怪を見たら驚くと思うのですが……」
「もちろん驚いてますって! ほら、さとりさんなら分かってるんじゃないですか?」
翔一は相変わらず、さとりに笑顔を見せてくる。確かにその心には驚きの感情が感じられるが、妖怪への畏怖というよりはさとりの容姿に向けられているようだ。
外の世界の伝承では
覚
(
さとり
)
は体毛に覆われた猿のような妖怪だと伝わっているようだから、さとりのような少女の姿では驚くのも無理はない。
彼女が予想していた驚きの感情は、もう少し別の方向性のものだったはずなのだが。
「でも、安心しました。さっきこのお屋敷を出たときは上を見上げても空がなくて……本当に地獄に落ちちゃったのかと思いましたけど、ちゃんとこの上にはお日様、あるんですね!」
料理人として、あるいは菜園の持ち主として。翔一は太陽を愛している。地底の果てにおいて、その光が差し込むことはないが、遥かな天盤の彼方に、彼の知る太陽は確かに存在している。
「……地の底であることは事実ですけどね。ただ、
地底
(
ここ
)
にも太陽と呼べるものはあります。お空の八咫烏の力は、停止状態だった灼熱地獄跡に再び火を灯してくれた」
旧地獄の太陽。それはお空が神に与えられた八咫烏の力。核融合を操る能力こそが、この地底における太陽そのものである。
灼熱地獄跡は地球の核、マントルにまで繋がっている。そこから引き出す膨大なエネルギーを安定させ、この地底世界全体に行き渡らせるのが灼熱地獄跡の役目だった。
かつては地獄として死者の魂を焼く業火だったが、旧地獄として切り捨てられてからはもっぱら生身の死体を燃やし、地底のエネルギー源とするくらいのもの。全盛期に比べればその火力は遥かに弱くなっていた。
そこで、死んだ灼熱地獄跡に火を灯し直してくれたのが、お空に与えられた神の力。太陽と同じ核融合を司る、八咫烏の力だったのだ。
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