ハーメルン
東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm.
第12話 深秘的な超能力者
幻想郷の人里から少し離れた
山麓
(
さんろく
)
の平野に、鬱蒼とした広がりを持つ不気味な森が存在している。深い魔力と有害な瘴気に満ちたこの森は『魔法の森』と呼ばれ、よほどの物好きでもない限り近づく者はいない。
そんな森のすぐ近くには、とある小さな古道具屋『
香霖堂
(
こうりんどう
)
』が建っている。里でも森でもないこの場所は人間の領域と妖怪の領域、それぞれの中間に位置していると言っていい。
そして、それを体現するかのように、この香霖堂を経営する店主もまた人間と妖怪の中間たる存在――『半人半妖』と呼ばれる人妖の
混血
(
ハーフ
)
であった。
若く見えても半妖の青年。見た目以上に長く生きている
森近 霖之助
(
もりちか りんのすけ
)
は今は店の外におり、従業員不在の香霖堂を背にして青と黒の
東洋風
(
オリエンタル
)
な装束の裾を熱風に揺らしている。短く整った銀髪の隙間から覗く
眼鏡
(
めがね
)
越しの
双眸
(
そうぼう
)
は、どこか好奇心に光っているようだ。
視線の先にいるのは
霖之助
(
りんのすけ
)
自身も写真や伝聞以外で姿を見るのは初めての妖怪、旧地獄に住まうとされる霊烏路空だった。普段は地底で働いていると聞いていたが、その様子はどう見ても尋常ではない。
灼
(
や
)
けつくような熱風を全身から発しながら、激しく苦しそうに息を荒げている。
「あれは地底の……確か『お空』と呼ばれている地獄鴉だったか。なぜ彼女が地上に……?」
今は春だというのに目の前にいる核熱の地獄鴉が空気を熱し、夏のような暑さだ。霖之助は額に伝う汗の雫を拭いながら、外の世界から仕入れたストーブの熱を思い出す。冬にあれだけ重宝した暖かさなど比較にならないほど、お空の熱は遥かに強い。
湿度の高い森の水分が蒸発していく。焼き尽くされる空気が渇き、眼球や口の中が乾燥していくのが分かる。
霖之助の視界が白く染まったのは水蒸気によって眼鏡が曇ってしまったからだ。その隣で同じく白く曇った眼鏡を拭いて掛け直す少女もまた、目の前で燃え盛る地獄鴉に視線を注いでいる。
「地底の妖怪なんて珍しいんじゃない? ……でも、なんかヤバそうな雰囲気……」
癖のついた茶髪に被る黒い帽子、近代的な
菫
(
すみれ
)
色の制服とスカート。本来ならばこの幻想郷の住人ではない
宇佐見 菫子
(
うさみ すみれこ
)
だが、彼女はとある理由から眠っている間だけ
外
(
・
)
の
(
・
)
世
(
・
)
界
(
・
)
からこの幻想郷に来ることができるという特殊な体質を持っている。
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