ハーメルン
東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm.
第18話 異変
結界で隔絶された幻想郷の北西。古くから
聳
(
そび
)
える『妖怪の山』の深奥には、これまた特殊な仙術によって切り隔たれた『仙界』があった。
仙界は霧に包まれ、内なる屋敷は質素に佇む。とある仙人が独自の仙術をもって開いた空間において、この『
茨華仙
(
いばらかせん
)
の屋敷』はその隠れ家となるために造られた。
特殊な方術で隠されたこの場所に辿り着けるのは、彼女が決めた
正路
(
パスワード
)
を正確に通ることができる者だけに限られている。
屋敷の主――この仙界の所有者である
茨木 華扇
(
いばらき かせん
)
は仙人『茨華仙』として修行中の身だ。
白い中華服に緑のミニスカート、紅色の前掛けには茨の模様が描かれ、胸元には
牡丹
(
ぼたん
)
の飾りが身に着けられている。二つのシニヨンキャップを被った朱色のショートヘアは風に揺れ、彼女に仙界への来訪者を知らせてくれた。
左手首に装う鎖のついた鉄製の枷。右腕は白い包帯で全体を覆い、指先に至るまで隙間なく肌を隠している。
否。肌を隠しているという表現は正確ではない。彼女には
右腕そのもの
(
・・・・・・
)
が無いのだ。この包帯は内に秘める妖気を固め、右腕の形に固定しているだけに過ぎない。
本来の右腕はかつて人間に切り落とされ、一度は独立した存在として暴走してしまったこともあったが、霊夢の尽力により今では封印されて茨華仙の屋敷に保管してある。本体である
華扇
(
かせん
)
の監視下にある以上、もはや暴走することはないだろう。
今の彼女はただの仙人だ。千年前に語られた『山の四天王』の一人、強大な『鬼』であった頃の華扇はもういない。
断善修悪
(
だんぜんしゅあく
)
にして
奸佞邪智
(
かんねいじゃち
)
の鬼、『
茨木童子
(
いばらきどうじ
)
の腕』はすでに封じられている。
鬼としての邪気と
袂
(
たもと
)
を分かち、仙人として生きていく。それが今の華扇が選んだ新たなる道だった。
「…………」
華扇は風が伝える来訪者の気配を耳に聞く。幻想郷の創設を担った賢者。八雲紫は音も立てずに少女の背後に現れ、相変わらず胡散臭い笑みを浮かべた。
庭園に舞い散る桜の花びらは、この仙界が幻想郷と同じく春の香りに包まれていることの証左である。
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