ハーメルン
東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm.
第19話 紫の思惑 Cross the Border
迷いの竹林にひしめくミジンコのグロンギたち。ベ・ジミン・バは妹紅と慧音を取り囲み、ズ・メビオ・ダの意思に従うかのように短剣を構えながら跳ね回っている。
ビートチェイサーの走行音はすでに遠ざかっており聞こえない。どうやらベ・ジミン・バたちの追跡を阻止できたらしく、魔理沙たちの方へ向く個体は一体も見られなかった。
「ギィィ」「ギギィィ」「ギィギィギィ」
灰色のオーロラはすでに消えている。だが、この場に集ったグロンギの数は膨大だ。両手の指では足りないほどのベ・ジミン・バがひしめき溢れ、不快な鳴き声を発している。
筆頭とするズ・メビオ・ダは竹林の木漏れ日に赤銅色のゲドルードを鈍く輝かせ、力量の差を証明しているようだ。
両手に灯った炎を弾幕と放ち、怪物を焼き払う妹紅が小さく舌打ちを零す。単体ではさほどの強さはないようで、本気の力を込めた通常の弾幕なら撃破は可能だ。
しかし次から次へと襲い来るベ・ジミン・バに加え、ズ集団の階級に属するズ・メビオ・ダのベ集団を遥かに凌ぐ戦闘力も無視できない。有象無象のミジンコばかりにかまけていれば、今度はヒョウの爪が妹紅か慧音の身体を切り裂くだろう。
不老不死の身体を持つ妹紅は自らの命を考慮していない。輝夜や永琳を含む彼女ら蓬莱人は永遠に死ぬことがないのだ。対して、慧音は人間の身から後天的に半人半獣となった特殊な妖怪である。満月の晩を除くすべての時間帯において、その身は普通の人間と変わらない。
「……数が多いな。慧音、スペルカードで一気に蹴散らすよ」
「お前ならそう言うだろうと思っていたところだ」
妹紅の呟きに同意する慧音。二人の手にはそれぞれの妖力を込めた札が輝く。背中合わせで呼吸を揃えた妹紅と慧音は手にした光の札、仮初めのスペルカードに本気の力を注ぎ込んだ。
「――時効、月のいはかさの呪い!!」
「――
産霊
(
むすび
)
、ファーストピラミッド!!」
声を重ねて二人は叫ぶ。妹紅の妖力は不死の炎と燃え上がり、慧音の妖力は青く輝く歴史の中に光を灯す。周囲にひしめくベ・ジミン・バを一掃すべく、解き放たれた二枚のスペルカードは二つの巨大な弾幕として竹林に具現した。
どちらも弾幕ごっこで用いられる遊びの威力ではない。目の前の悪意ある怪物たち。グロンギを確実に倒すために発動された本気の弾幕。殺傷のための攻撃だ。
妹紅を中心に広がった粒状の緑弾はベ・ジミン・バの群れを薙ぎ払っていく。その隙間を縫って突き進む赤と青の光剣がグロンギの背を穿ち、爆散させる。
歴史に残らない殺人事件の再現。妹紅が過去に犯した罪はすでに時効とされている千年以上も昔の出来事。かぐや姫が帝に授けた蓬莱の薬を奪うため、妹紅は『
調岩笠
(
つきのいわかさ
)
』なる人物を蹴り落とし、下山中に殺害した。それを自らに呪いと戒め、忘れないように自身が持つスペルカードの名前として刻み込んだ。
それを思い出させる【 時効「月のいはかさの呪い」 】は妹紅にとって蓬莱の薬を求めてしまった罪を示唆するもの。ゆえに、その名は『尽きない若さの呪い』でもあるのだ。
同時に放たれた慧音の弾幕も怪物たちを襲う。慧音を中心に展開した妖力の結界は青白く輝き溢れ、同じく射出された青い光弾をもってベ・ジミン・バたちを一体たりとも逃がすことなくそのエネルギーで撃破していく。
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