ハーメルン
東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm.
第2話 現れるもの Contact Encounter
建物一つない荒野と化した人間の里。
だが、それは決して怪物によって滅ぼされてしまったためではない。この里に住む一人の妖怪が幻想郷の『歴史』を喰らい、人里の存在を生物の認識から欺くことで隠しているからだ。
過去の出来事を無かったことにし、偽りの歴史を正史だと錯覚させることで、人間の里を侵略者から守っている。
妖怪の身にして人間を愛する彼女は、この里が
蹂躙
(
じゅうりん
)
されることを許せなかった。
「ここを、通すわけには……!」
女性は青い建物状の帽子を被り、蒼銀の長髪を揺らしながら息を切らしている。青い服と特徴的なロングスカートは彼女自身の血と土に汚れ、
芳
(
かんば
)
しくない戦況を雄弁に物語っていた。
半人半獣の妖怪である女性、
上白沢 慧音
(
かみしらさわ けいね
)
は歴史を司る『ワーハクタク』と呼ばれる種族の能力で里を隠し、怪物の侵攻を食い止めている。
人間の里は物理的に消失したわけではなく、あくまで一時的な歴史の改変により生物の認識から外れているだけだ。怪物が無差別に暴れてしまえば、どれだけ歴史を変えようと人里が滅びる運命に変わりはない。
彼女が持つ『歴史を食べる程度の能力』は、実際に起こった出来事や過去そのものを書き換えることはできないが、歴史を隠すという形で今ある現実にある程度の影響を与えられる。
既に過去の出来事を知っており、そこに里があったという事実を知る者に対してはあまり意味がないものの、里の成り立ちを知らない若き人妖や、外の世界からの来訪者にとっては過去の改変と同等の効果を発揮するのだ。
幸い、死傷者を出すことなく里の存在を隠せたが、彼らが帰るべきこの場所を、慧音はなんとしても守りたかった。彼女はそれを自らの責務だと考え、幻想郷の秩序を乱す者を敵視する。
「ギィ、ギィィ」
慧音に対し、向かう怪物の数は三体。表情の伺えない不気味な姿で彼女を取り囲むベ・ジミン・バは、ミジンコのように
忙
(
せわ
)
しなく飛び交い、慧音の首を
刎
(
は
)
ねようと短剣を構えている。
能力で隠しているとはいえ、多くの人間たちが生きる里でこの数を相手に戦うことは難しい。集中力を切らせば能力が解け、目の前の怪物は間違いなく人里に侵攻するだろう。
スペルカードルールによる決闘なら余裕を保っていられるが、幻想郷の法に従わない者が相手ではそんな悠長なことは言っていられない。里を丸ごと対象とした大規模な術を維持しながら、命を奪い合う本気の戦闘を行うなど、争いを好まず、戦闘慣れしていない慧音にとっては容易にできることではなかった。
まして半人半獣といえど、今の彼女は普通の人間と何も変わらない。獣人としての本来の能力、すなわち神獣『
白澤
(
ハクタク
)
』としての慧音は、月に一度、満月の晩にのみ
顕現
(
けんげん
)
する。今は人間としての能力を駆使し、人間並みの身体能力のままで未知の怪物と対峙している状況にあるのだ。
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