その1
総武高校の部室棟の一室。そこに奉仕部の部室はある。何をするのかよく分からないその部活動は、しかし確かな実績を持つ少女が部長を務めていることで確立していた。
現在の部員は四名。部長である彼女、雪ノ下雪乃と自称副部長由比ヶ浜結衣、体験入部を謳っていた割には居着いてしまった三浦優美子と海老名姫菜。
これに入部届も出さない上に来たくて来ているわけではないとぼやきながら何故か入り浸る一人の少年を加えたのがここの主な住人である。
そんな五人は今、暇を持て余していた。
「あ、じゃあこれ。次までにどうにかしないとブラックホールに飲み込まれて優美子の負けね」
「はぁ? 意味分かんねーし」
ひょい、と姫菜の置いたカードを見る。彼女の述べたことがそのまま書いてあり、なんじゃこりゃと優美子は顔を顰めた。
「じゃあ次あたし。えーっと、これかな? 『道徳的には正しい』、今残ってる人みんな勝ち」
「おい待てガハマそれはつまり俺だけ負けじゃねぇか」
「諦めなさい比企谷くん。あなたは敗北者なのよ」
どこぞの場所から調達してきたゲームをしながら無駄に駄弁る。間違いなく部活はしていない。だというのに、それを咎めるものはどこにもいない。それはここが治外法権であるというわけではなく、ただ単に顧問が不在で仕事もないというだけなのだが。
そんな折、部室の扉がガラリと開いた。視線をそこに向けると、ここにいる面々にとっては顔馴染みの少女の姿が。
「雪ノ下先輩! 助けてください」
「あら一色さん、いらっしゃい。それは依頼ということでいいのかしら?」
遊び終わったカードを片付けながら雪乃がそう尋ねると、やってきた少女、一色いろははコクリと頷いた。とりあえず座って、という雪乃の言葉に従った彼女が一行の隣の椅子に腰を下ろすと、ついでに先程まで遊んでいたカードゲームをちらりと見る。どうやら忙しくはないようで、これならしっかりと話を聞いてもらえそうだ。そう判断し、とりあえず安堵の息を零した。
「んで一色、どしたん?」
頬杖を付きながら優美子が問う。雪乃はノートを準備しいつものように依頼を書き留める体勢になっているので、その質問は誰が言おうと別段変わらない。勿論いろはも分かっているので特にそこには何も言わず、今回の依頼についてを語り出した。
「実は、もうすぐ生徒会選挙があるんですけど」
「そだっけ?」
「そういえばそんなこともあったような」
結衣が首を傾げ、姫菜がぼんやりと呟く。まあ自分の学校生活に関係しない出来事なんざそんなもんだわなとそれを聞いていた比企谷八幡は思い、だが同意はしてやらんと口を噤んだ。ここで何かを言うと目の前の悪魔、雪ノ下雪乃の思うツボだからだ。
「で、それがどうしたんだ」
その代わりというべきか、彼はとりあえず先を促すことにした。そもそもとして目の前の少女がそんなイベントに関連するとはとても思えない。インスタ映えとか女子力とかそういう見栄えを意識しつつ男を手玉に取ろうと裏で腹黒く笑うようなこいつが、生徒会とか。思わず鼻で笑いそうになり、自分から先に進めようとしたくせに脱線しかけたことを自覚して息を吐く。
「先輩、今絶対お前には欠片も関係ないだろうとか思いましたね」
「気のせいだろ」
「じゃあこっち見て言ってくれません?」
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