その3
「それで、どうしたの?」
「その前に物申させろ」
放課後。八幡のリクエストによりお約束のファミレスへと向かった二人は、お約束のようなやり取りを交わしていた。内容を聞こうとする結衣に対し、八幡はそもそもの発端の件について追求したのだ。
「あそこで何か変なことを言う方がマズくない?」
「それは、まあ、そうだが」
「それに。あたしはこういうのも、普通のも、全部ひっくるめてデートでいいと思うんだ」
駄目かな、と結衣は目の前の彼に問う。うぐ、と言葉に詰まった八幡は、溜息と共に分かった分かったもういいと零した。
「まあ、とりあえずはいろはちゃんの件が片付いたらってことで。どう?」
「何でお前俺が不満に思ってるとか寂しがってるとかそういう方向に結論付けたわけ?」
「違うの?」
「違ぇよ」
そっか、と結衣は話を打ち切る。そこで更に何かを言わないことで、八幡は眉を顰めコノヤローと呟いた。何も言わずとも、何かを言っても。それで分かると、お互いにそう思える関係は、かつて彼が思い描いていたものに似ていて。
だからこそ、それを当たり前のようにやろうとしている結衣が、彼は。
「それで、どうしたの?」
「お?」
「何か意識飛んでたし。話するんでしょ?」
「あ、ああ。そうだったな」
「そうそう。んで?」
こほん、と咳払いを一つ。そうしながら、果たしてこいつにどこまで言って大丈夫なのかを一瞬考えた。が、あくまで一瞬である。そこを迷うくらいならば最初から相談相手に彼女を選んではいない。
そんなわけで、八幡はぶっちゃけた。陽乃から聞いた話や、それによって決めた新たな自分の立ち位置。そして雪乃は信頼出来ないという結論も。
「ゆきのんならその辺大丈夫だと思うんだけど」
「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」
「まあヒッキーが違うんならそれ用の対策が必要ってことだね」
ジト目で告げた文句はさらりと流され、結衣はそこで暫し何かを考えるように腕組みをする。二つの腕で強調されたそれは、とても柔らかそうな感触を醸し出していた。
「ちなみに、ヒッキーはどうするつもり?」
「それが決まってたら相談してねぇよ」
「そりゃそうかもしんないけど。何もないの?」
「つってもなぁ……。今の俺の立ち位置で一色を説得しようとすると、どう考えても無理が出てくる」
「いろはちゃんの味方するって言ってたのにね」
「いや言ってはいないぞ。無理矢理加えられただけだ」
「そだっけ?」
んん? と首を傾げる結衣に、奉仕部ではないからという理由で引き込まれたのだと八幡は述べる。若干のセクハラめいた発言を見咎められた部分はスルーした。あれは何故か知っていたいろはが悪い。そういうことになった。
「じゃあ問題なくない?」
「は?」
「ヒッキーなら、『俺はそもそもお前に協力するとは言っていない。雪ノ下の味方をしたくなかっただけだ』とか言っても分かってくれると思うよ」
「お前最低だな」
「酷くない!?」
目の前の彼氏の行動をトレースしただけだ。そんな文句を述べる結衣を眺めながら、しかし確かにそうかもしれないと八幡は思う。結局の所、今回の問題はいろはが勝つと雪乃の思い通りになってしまうという部分だ。彼女の味方をしないからこそいろは陣営に落ち着いている八幡にとって、その結果は所属している意味を無くす。
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