胡蝶しのぶは忘れない
「姉さん!大丈夫!?」
「しのぶ、鬼の周りの空気は吸わないように気をつけて。肺がやられるわ」
カナエがそう言うと目に上弦の弐と書かれた鬼は困ったような顔をした。
「んー、不思議だなぁ。なんでバレてるんだろう。今までの柱は気づかなかったけどな」
そう話しつつ手に持っていた鋭い対の扇を軽く扇ぐと白い煙のようなものがかすかに濃ゆくなる。
(これが、上弦…)
今まであった鬼達が子供に見えるほど比べ物にならない圧力を感じ、しのぶは冷や汗が背中を流れるのを感じる。
「以前、柱の方はやられましたが貴方との戦闘で生き残った隊士の証言と身体を調べてわかった情報です。
上弦の弐の近くで呼吸すると肺が凍ると」
そう言われた上弦の弐は何かを思い出した様子だった。
「あー、あれかなぁ?風の呼吸使う男の柱、とても強くて殺しきれなかったし、皆殺しにするつもりがその人以外手が出せなかったんだよなぁ」
あのあと怒られたんだから参ったという様子でヘラヘラとする鬼に刀を構えて駆けたカナエは一瞬の踏み込みで鬼の懐へと入りこんだ。
《花の呼吸 肆ノ型 紅花衣》
低い姿勢から鬼を見上げるように放った型は、大きく綺麗な円を描く斬撃を鬼の頸に放った。
「おっと」
それを頭を後ろに引く動作で躱しきると冷気が強くなるのをカナエは感じとる。
刹那、空気をも無差別に凍らせる斬撃がカナエを襲った。
《血鬼術 蓮葉氷》
《花の呼吸 弐ノ型 御影梅》
その攻撃をカナエは紙一重で躱しながら自身に近づいていた冷気を無数の斬撃を放って効果がほとんど無になるほどに散らし躱しきって見せた。
「…本当強いなぁ君、ますます食べてあげたくなっちゃうよ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
擦り傷でさえ場所が悪ければ致命傷になり得る血鬼術、しかも近くの空気を吸えば剣士としての力の源である呼吸を出来なくなってしまう。
そんな無茶苦茶な鬼を相手にカナエは擦り傷や服を切られながらも渡り合っていた。
「…すごい、姉さん」
あまりに速過ぎる攻防を何度も繰り返す光景を目の前に、実力も毒も完成していない今の自分にはまだ入ることができないと剣士としての本能が感じ取っていた。
(もうすぐ日が昇る…それまで奴を足止めすることができれば姉さんの勝ち…)
刀を構えていながらも入る余地がなく動けずにいたしのぶは鬼が背にしている東の山が明るくなっているのを見てそう確信する。
しかしそれは鬼も承知の事実であった。
「んー、君を食べたいのもあるんだけど、このままじゃあ日に焼かれちゃうから一旦休戦しないかい?」
「貴方を逃せば、何百何千と人の命が脅かされるのは目に見えています。逃しません」
「だよねえ」
そう言った鬼は満面の笑みで扇を広げると小さな氷の存在を作り出した。
《血鬼術 結晶ノ御子》
「「!?」」
「君たちにはこの子達の相手をしてもらおう」
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