第8話 武術指導のイエリッツァ先生
鋭い剣が、胴を狙って放たれる。
それに対してさらに下に滑り込むことでその剣を回避し、そして顎に向けて蹴りを放つ。
だが、すんでのところで回避し、さらに頭に向けて振り下ろしをしてくるフェリクス。だが、無理な回避をした事で体勢は崩れている。そんな振り下ろしよりかは、俺の次の蹴りの方が早い。
蹴りの体勢からさらに身体を浮かせて、反撃に集中しているフェリクスの側頭部に二段目の蹴りをぶち当てる。完全に予想していなかった攻撃に対してフェリクスは一瞬動揺し、しかしそのダメージの軽さから冷静さを取り戻してしっかりと防御の構えをとった。
追撃で決めたかったが、無理そうだ。
「やっぱやるな、フェリクス」
「お前は珍妙としか言いようがないな。……だが、魔法アリなら今の一撃で勝負がついていた。不覚にも決め事に助けられたな」
「ま、話すのは置いておいて、続けようや」
「だな。この試合、勝つのは俺だ」
再び再開する試合。
剣を持っているフェリクスはそのリーチの長さを利用してこちらに手を出させないコンパクトな剣理に切り替えてきた。本当に隙がない。いや、魔法なりを使えれば引き撃ちでどうにでもできるのだが、この武術訓練は魔法禁止のルールなのだ。限られた魔法力を温存する為に設けられたルールだ。
多分魔法アリにすると一部の強者以外魔法無双になってしまうならだろうなーとなんとなく思っているが、真相は闇の中。
そうしてフェリクスの攻撃を徐々に捌いていくと、もう下がれない所まで追い詰められてしまった。背後には柱、逃げ場はない。
つまり、狙い通りだ。
「終わりだ!」
「そっちがな!」
フェリクスの剛撃を後方にダッシュする事で回避し、そのまま柱を蹴ってスピードを威力に載せつつ高さを取る。
そうして、柱を蹴った力で縦に回転し、そのままフェリクスの脳天に足を叩きつける。
フェリクスはギリギリで反応して訓練用剣の柄を盾にしたが、回転のスピードと重力の乗った蹴りはその防御を砕いてそのままフェリクスを打ち据えた。
「そこまで! 勝者ジョニー!」
「よっしゃ勝った!」
「……まだ、やれるッ!」
「そこまでにしろフェリクス。指の怪我を癖にする奴は早死にするぞ」
「イエリッツァ先生……」
「そしてジョニー……貴様、何故剣を投げた?」
「……あー、言わなきゃダメです?」
「ダメだ」
「……自分、剣とか槍とか斧とかを使うのが絶望的に下手くそなんです。騎士長とか自警団の奴とかに色々教わったんですけど……」
「……見てみない事には何もならんな。剣を使って攻めてこい」
「……わかりました、どうなっても知りませんよ!」
そうして、イエリッツァ先生に打ち込む。
剣の握り方は教科書通り青眼に。左手に力を入れて、右手は添えるだけ。
その構えで、真っ直ぐに打ち込むつもりで剣を振る。
するとどういうわけか、俺の剣は治療を受けていたフェリクスの頭にぶつかった。
「ふざけているのか?」
「ふざけてこうなるんなら苦労はないんですよ! 俺は、あらゆる武器が手からすっぽ抜けていくんですよ!」
ちなみに、それをどうにかしようとした結果が腕に仕込んだコイルガンだったりする。仕込みボウガンはアウトだが、コイルガンはセーフらしい。何その軽減税率みたいなジャッジ。
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