第5話 赤き谷ザナド
今節の課題出撃は、先日俺たちを襲った盗賊の追討。初の実戦ということで緊張する皆を他所に、俺はあの日最後に殿を務めた男ディアンスの事を思い出していた。
彼は、守る男の目をしていた。どんなに情けなくても、その覚悟は疑いようはないだろう。
「何を考えてるんですか? ジョニー」
「ただ、多分これから殺す盗賊達にも守るものがあったんだろうなって」
「けれど、それを理由に誰かを傷つけることを肯定して良い訳はありません。繋ぐその手に武器を握った時点で、戦うしかないんですよ」
「流石リシテア姉さん、強いなー」
「……ジョニーにそれを言われるのは少し癪です」
「なんでさ」
「さ、無駄口を叩いてないでさっさと行きますよ。行軍からすこし遅れ気味です」
「だな、減点されたら事だ」
そうして、赤き谷ザナドへとたどり着く。
そこには、騎士団に追い立てられた盗賊達が、死に物狂いで待ち構えているだろう。
力は、わからない。だが、心でだけは負けてはならない。
殺す事を、殺す痛みを受け止める覚悟をして、最前線へと布陣するためちょっとだけ走る。
迷いはきっと生まれるだろうけれど、それでも握る拳に込める願いに変わりはない。
せめて、救われてあれ。
「赤き谷っつーからよー、てっきり色も赤いもんだと思ってたぞ」
「ホント、なんで赤き谷なんて呼ばれてるんだろうね? ジョニーくん知ってる?」
「昔に虐殺でもあったんじゃないか? 血の色で赤く染まった谷だから赤き谷、なんてさ」
「うーん、歴史書にはそんな事書いていませんでしたけど、ありそうな話ですよね。後世に口伝だけで伝わった結果伝承の詳細が途絶えてしまったとか」
「ま、そんな事は歴史家が考えれば良い事さ。先生、配置に付いたぜ。騎士団が包囲に回ってくれてるから逃れる道はこの橋の正面突破だけ。……正直死兵を相手にはしたくないから包囲網はどっか開けておきたいんだけどな」
「逃がさないのが命令だ」
「すいません先生、捕らえた場合のことってのは聞かされてます? いや、積極的に狙うつもりはないですけれど」
「特には」
「じゃあ、頭を殺してから残りに投降を持ちかけるってのが楽そうですね」
そんな血生臭い会話を終えて、橋の前で盗賊団と睨み合う。
最前線を貼るのは、ヒルダの姉さんとラファエル。中衛にはレオニーさんと俺、後衛はクロードとイグナーツが務めることになっている。橋を完全に制圧してからは先生とローレンツがカバーに、魔導師コンビである姉さんとマリアンヌが治療に入るので多少の負傷も安心だ。
「出撃」
そんな先生の声を皮切りに、皆は行動を開始する。
「うぉおおおお! 行くぞぉおおおお!」
「ちょっとラファエルくん! 前に出過ぎないで!」
「クソ、ガキにやられてなんかたまるかよぉ!」
「嫌だ、死にたくねえ! 死にたくねぇんだ!」
ラファエルの斧と盗賊の剣が真っ向から衝突する。力を十全に乗せたラファエルの斧は、盗賊の剣を叩き落とした。そして、そこに間髪入れずに援護を入れるのはレオニー。狩で鍛えたショートボウの扱いは一級品であり、剣士の喉元を正確に貫いた。
だが、死体は消えて無くなるわけじゃない。前に重心が流れていたラファエルは死体に倒れ込まれ、足を止められ、そこをもう一人の剣士に狙われる。
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