10 リュンナの剣技
せっかくいろいろと武器を運んできたのに――という不満げな顔をベルベルは浮かべた。
苦笑しながらぷにぷに撫でて誤魔化す。
先方は溜息をつき、誤魔化されてくれた。
「じゃあまあ姉上、とりあえず剣を持ってみてください。利き手でね。もう片手は呪文用に空けておくのが基本ですから」
言われたソアラが手にしたのは、兵士の制式装備のひとつである鋼鉄の剣だ。
最初は重さによろけるかとも思ったが、平気な様子で、誰もいない方向に軽く振り回している。
「意外と軽いのね」
「……」
銅の剣は持ったことがあるとのことだから、それとの比較の問題だろうか。
鉄は銅よりも軽いし、当時は今ほどの年齢ではなかったろうから。
さて、リュンナは檜の棒を手に取った。
大人用の太さでも、軽いこれなら片手持ちができる。
「基本の構えはこうです」
右手、武器を緩やかに前方へ。切先は水平より上を向く、片手持ちだが正眼に近い。左足は引いて半身になり、左手は腰の辺りに。
ソアラにも真似てもらいながら。
「さっき剣は守備力も高いって話が出ましたけど、まあその通りですね。こうして武器を前に出しておくことで、攻防どちらもすぐにできるように。
左手は呪文用です。前に出し過ぎると敵に斬られますから、体の近くに。或いは背中の後ろに隠してしまうか、ともすれば開き直って武器を両手持ちすることも」
「攻撃や防御って、具体的にはどうするのかしら」
「基本はどっちも同じですよ。勢い良く剣を振って、叩き付ければいいんです。ただし攻撃するときは刃を、防御のときは剣身の腹の方がいいですね。本当はもっと細かい注意点やら方法やらいろいろあるんですけど、最初はそれだけで。
例えば正面に敵がいるなら――」
リュンナは左足を引き付けて右足を前へ、一気に踏み込んで――その慣性に引かれるように檜の棒を自然と振り被り、踏み込みが成ると同時に、真っ直ぐに鋭く振り下ろした。
風を切る音が遅れて聞こえる頃には、振るった延長線上にあった訓練場の地面と壁とが粉砕される。
そして手の中の檜の棒もまた引き裂けるようにへし折れ、落ちた。
「……やべっ」
ついうっかり、プレーシの町で戦ったときを超える力加減で振ってしまった。魔物の群れやアークデーモンを斃した今の自分は、どれだけがレベルが上がったのだろうか――ふとそう思ってしまったのだ。
結果はこのありさまである。壁を砕き、床を抉り、備品の武器も壊した。
これで闘気は使っていないのだから、何とも。
訓練中の兵士たちがざわめき、様子を見に来る。
間近で見ていたソアラはと言うと、困りながらも感心している様子。
「ダメじゃないリュンナ、こんなに壊して……。でも檜の棒でこんな威力が出るなんて、凄いのね。離れたところにも攻撃が届いているけれど、これはどうやったのかしら」
「もしかして、今のが噂の真空斬りというヤツでしょうか!? リュンナさま!」
「なるほど、これが」
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