20 新たな冒険に向けて
仲間たちと合流すると、魔物の群れも残り僅かだった。挟み撃ちにして磨り潰すように殲滅する。
逃げ散る敵も多かったが、結局味方に死者はなし、重傷者も回復済み。全員五体満足での完勝となった。
そんなことよりも、アバンがリュンナを抱き上げて飛び下りてきたことの方が、いろいろと問題を生じたが。
あまつさえリュンナが嫌がるどころか、しっかりと彼のマントを握り締めていたことが、余計に隊長の憤怒を助長した。いや別に、落ちないためにね。
「リュンナさま、騙されてはなりませぬ! こんなどこの馬の骨とも知れぬ男に……!」
「カール王国のアバン=デ=ジニュアール3世だって判明してますよね……? そもそも騙されてませんし」
隊長はリュンナを崇拝し理想化するあまり、最早リュンナ自身の手にも負えない存在となり始めていた。怖い。
「騙されていない!? 真実の愛ということですか!?」
「何が愛ですか! そりゃ勇者の先輩として好きではありますけど」
「好き!!?!?!?!?!?!」
もうやだこの隊長。
「惚れたの腫れたの……! 早い! あまりにも早過ぎますリュンナさま……! その清らかな身を守らねば!」
「まずリュンナ自身の気持ちを大切にしてあげないの?」
ソアラがそっと問う。
隊長はうんうん唸ったあと、渋々といった感じで引き下がった。
「今日のところは、これくらいにさせていただきましょう……!」
「小悪党の捨て台詞ですか。ともあれ姉上、ありがとうございます。別に気持ちとかそーゆーのはないですけどね!」
ない。
そりゃイケメンで勇者で強くて何でもできて性格も良くて、しかもそれを鼻にかけない、かなり完全無欠な男ではある。歳も言うほど大きく離れているワケではない。
が、それとこれとは話が別だ。
勇者としてパーティーに誘われていることも。
「ところで先ほど、リュンナ姫を勇者としてパーティーに誘ったんですが」
「ちょっと先輩?」
この流れで!?
案の定、隊長が再びいきり立ち、今度はソアラさえもが不満そうに頬を少し膨らませた。
「アルキード王国をもっと強くしてから、とお断りされてしまいましたよ。いやー残念です」
「あー、テイのいい断り文句だな。行けたら行く、みたいな」
マトリフが鼻をほじりながら言った。
続けてロカとレイラは落胆を隠さず。
「何だよアバン、一瞬期待したじゃねーか。俺の剣をあれだけ防ぐ腕前、絶対心強いと思ったのに」
「リュンナさまは、こんなに小さいのにアバンさまのように立派な方ですからね。私も少し残念です」
会話が進む度、隊長やソアラの様子がホッとしていく。
空気の熊さんを、ベルベルとリバストが両側から肩を叩いて慰めていた。
しかしこの流れは良くない。
断ったつもりはなかった。普通に言葉通りに、自分がいなくても安心なくらいに国を強化できたら、アバンに合流する予定なのだ。もちろん、間に合うかどうかの問題はあるが……。
原作展開をどこまで変えられるのか? という実験の意味合いもある。ようやく出会えた原作展開なのだ。
この世界に対して、原作はどの程度の強制力を持っているのか。歴史を変えることはできるのか?
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