5 戦い終わって
初陣を勝利で飾ったのはいいとして、それで全てが丸く収まるワケではない。
町民に死者は少なからず出ているし、生きていても怪我をしている者は更に多い。破壊された建物などもある。
回復呪文の使い手たちも、残り少ない魔法力をリュンナに回したため、人々は呪文治療を受けられなかった。町の道具屋が薬草を無料で配布したことで事なきを得たが。
この薬草の分は、あとでわたしのお小遣いから出そう――リュンナは、奉仕が無料では済まないことを学んでいた。
比較的被害の少なかった宿屋に部屋を取り、湯浴みを終えて着替え、ようやく一息をつく。
触っても温かいで済むほど微弱なメラで、髪を乾かしてくれる侍女を背後に、向き合う先には近衛隊長の女騎士。
もう何度目かになるか、隊長が頭を下げてくる。
「本当にお疲れさまでした。リュンナさまなくして、とてもこの勝利はなかったでしょう。
ある程度復興が進んだ町を再び襲い、半壊と復興とのイタチゴッコに陥らせて苦しめようとは、魔王軍もエゲツナイことを考えるものです。しかし我らが勇者姫のお力の前では、そんな粗雑な策はこの通り……! いや、あのような神話の如き戦いに立ち会えるとは、まことに騎士冥利に尽きます」
うんうんとひとりで頷き、とても満足そうだ。
リュンナもそうまで言われて悪い気がするハズもなく、気恥ずかしさはあるものの、素直に褒められておいた。
「まあ『勇者姫』はちょっとどうかと思いますけどね。そんなガラじゃないでしょ」
「何を仰いますか! 剣と呪文とを自在に操り、圧倒的な強さで邪悪を砕く! これが勇者でなくて、いったい何だと仰るのでしょう!」
拳を握って力説された。鼻息が荒い。
しかしそこでふと、隊長の顔が訝しげに顰められた。
「ところで剣と言えば、気になっていることがあるのですが」
「うん?」
「最後の、あの敵将をイオナズンごと斬り捨てた凄まじい技は……剣が黒く染まっておりましたが、あれはいったい……?」
あー、そこ聞いちゃいます? そっかー。そっかあ……。
リュンナは反射的に目を逸らした。
「リュンナさま……?」
隊長の声が不安げに揺れる。
感付かれたか? あれが邪悪な力であると!
原作知識を持つリュンナは、あの闇の濁流が暗黒闘気であろうことを察している。
闘気とは攻撃的生命エネルギー。中でも暗黒闘気は負の感情などから生じ、禍々しく邪悪な雰囲気や用途を持つ、半ば呪いのような危ない力である。
本来勇者が使うべき正義の象徴、光の闘気の正反対に位置するものなのだ。
そんな力を使ったことが明るみに出れば、どうなるか。
勇者姫どころか、逆に魔族扱い一直線の可能性が高い、とリュンナは感じていた。それはもう清々しいほどの掌返しが待っているに違いない。
「何か危険なお力なのですか? じゅ、寿命が縮まってしまうですとか……! 我々のためにご無理をなさったのでは!?」
「そんな! リュンナさま!?」
隊長の疑念に、侍女も悲痛な声を出すが……。
えっ、いや、特にそういうことは。たぶん。
むしろ寿命が延びそうな気すらするよね。暗黒闘気って回復に使われる場面も割とあったし。
闇堕ちの気配も別に感じないし。あれは自分自身の素直な怒りと憎しみの発露であり、それはすなわち愛国心の裏返しだから。愛国心!
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