第九輪 祝う魔女
「ケーキの作り方を教えて欲しい?いいけどなんで?」
向かいの椅子に座る少女、リーネにソーマはそう質問を投げかける。
時を遡ること少し前、一通りの訓練を終えたソーマがやることもなく時間を持て余して自室のベッドで横たわっていた。そこにノックの音が響き、ドアを開けてみればリーネがいた。
彼女から相談があると言われて部屋に招き入れ、要件を訊ねたところ先ほどソーマが口にした言葉が飛んできたというわけだ。
「もうすぐ芳佳ちゃんの誕生日なんです。だからお祝いがしたくて、ケーキを作ったら喜んでくれるかなって思ったんですけど私あまり料理得意じゃないから。ソーマさんに教えてもらえないかと」
「宮藤の誕生日…いいよ、そういうことなら是非協力させてくれ」
「ありがとうございます!」
明るくはきはきと笑顔でお礼を言うリーネ。すっかり以前の内気な雰囲気はなくなっているようで前向きで元気な最近の彼女の様子にはソーマも見ていて温かい気持ちになる。
「そっか誕生日かー…だったら盛大に祝いたいよなぁ。皆で協力して誕生日会開けないか相談してみるか。あ、それと後誕生日っていったらやっぱりプレゼントだよな。それも用意しておかないとな。何がいっかなー」
誕生日会と聞いて何時になく少年のように楽しそうに盛り上がるソーマを前にリーネはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべている。しかしソーマはそれに気付かず、リーネに質問する。
「それで宮藤の誕生日っていつなんだ?」
「えっと、それが…」
「どうした?」
途端に歯切れが悪くなるリーネにソーマは眉を顰める。そんな彼に申し訳なさそうな、何かバツが悪そうな、そんな表情を浮かべてリーネは口を開いた。
「…明日なんです」
「…明日?…えっ、マジ?ほんとに?」
「…はい」
聞き間違いかと耳を疑い、改めて聞き直すがリーネから突き付けられたのは否定ではなく肯定の言葉。
「私も今日初めて芳佳ちゃんから聞いて知ったんです。お父さんの命日でもあるから言い出しにくかったって…」
「あ~そういう事情なら仕方ない」
父親を失った日と自分の生まれた日が同じ、できれば自分からは言い出しにくいのは自然なことだろう。そこは宮藤もリーネもどちらも非があることではない。
「仕方ないけど明日か、プレゼントは用意してる時間ないし諦めるしかないな。とりあえず誕生日会だけでもなんとか開けないか今から中佐たちに相談してみよう」
「宮藤さんの誕生日会。ええ、いいわよ」
早速その足でソーマとリーネが相談も含めて執務室へ向かうと誕生日会の許可は驚くほどあっさり降りた。
むしろミーナと坂本も要求を聞くなり満面の笑みで応じてくれた。
「本当ですか?ありがとうございます、ミーナ中佐」
「考えてみれば歓迎会もまだやってなかったことだしな。その分も兼ねて宮藤をたっぷり祝ってやろうじゃないか」
「そういえばサーニャさんも誕生日この時期じゃなかったかしら?」
「サーニャ…リトヴャク中尉も?」
ミーナが言った名前にソーマは反応する。
アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク…501のメンバーからはサーニャという愛称で呼ばれている少女。
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