第一話 どん底のチームでの戦い 後編
大洗にてじっくりと選手達の練習を見た後、引き継ぎを兼ねて本社に戻った小林は、広報部のエースである谷口稔と久しぶりに食事をした。
「驚きましたよ、小林さんがアングラーズの社長とか」
外見も言動もチャラい男ではあるが、妙に人なつっこく、常陸スチールの広報部では広告代理店やマスコミとも幅広い人脈を築いて、広告活動を行っている谷口は、アングラーズのことも理解している。
「俺が一番驚いている。なんで俺が、大洗で戦車道をやるのかをな」
「奥さん大丈夫ですか?」
「単身赴任で納得してくれた」
家が柏市にあることから、妻は単身赴任になることに反対したが、ヘタな取締役よりも怖い小林家の主を説得することは骨が折れた。
「それよりも、問題はアングラーズをどうするかだ」
「まさか潰すってことはないですよね?」
谷口の冗談に、小林は笑わずお茶を飲んだ。
「それも考えている」
「やっぱり、問題はこれですか?」
「年間五十億円使って、売り上げは立ったの五千万だからな。一割どころか1%だ。大洗アングラーズは常陸スチールの支援で全て成り立っている」
一応、他のチームも調べてみたが、黒字になっているチームが無いことに驚いた。
「今年プラチナリーグで優勝したアヴァロンズも赤字、チェンタウロスも赤字、だが、それでもそれなりの活動をやっているから、終始の面で見ればなんとかまだマシに見えるな」
アヴァロンズもチェンタウロスも、親会社以外のスポンサーを見つける、あるいは出店の経営などをやったり、ファンを増やすことに専念している。
実際、アヴァロンズもチェンタウロスも、本拠地がある横浜市や宇都宮市では抜群の知名度をファンを抱えている。
プラチナリーグではこの二チームが、君臨しているのが現状だ。
「八幡ヴァルキリーズも同じだな。予算はウチの倍かけているが、それなりの広告宣伝費やらスポンサーやらが付いている。ところが、ウチは全くそんなことをしていない。まあ、原因は隊長の富永だろうがな」
「ああ、会ったんですか富永に?」
「正直、社会人になってからあれほど酷い奴に会ったのは初めてだよ」
最下位へと転落したチームを指揮していて、それに対する反省も詫びも無く、チームが最下位へと転落した原因を改善するどころか、ご大層な寝言をほざいた時点で、富永恭子に対する評価はゼロを通り越してマイナスになった。
「そもそも、なんであんな奴が隊長をやっているんだ?」
「プロリーグ発足からの選手で、日本一に輝いたからですよ」
「あいつがか?」
「厳密に言えば、その頃は戦車一台を任せれていただけの選手だったんですけど、チームの隊長になったことで、アングラーズはあんな感じになっちゃいましてね」
経歴を確認すると、飛び級で海外の大学を18歳で卒業した富永は、十年前に発足した大洗アングラーズが初めて日本一となったあの伝説の時代からの選手だ。
「だが、彼女の手腕で優勝したのか?」
「あれは当時の隊長のおかげですからね。たまたまアングラーズにいただけですよ富永はね」
「そもそもだ、なんであんな奴が隊長をして、それもあそこまで偉そうなんだ?」
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