第二話 小林再生工場始動 後編
「どうして監督が辞めなきゃいけないんですか!」
八幡ヴァルキリーズのクラブハウスで、そう問いかけたのは、八幡ヴァルキリーズの精鋭シュナップス中隊を率いる逸見エリカだった。
「来期の契約はしない。社長からはそう言われたよ」
激怒しているエリカとは対照的に、宮崎は冷静であった。
「監督は私達を三連覇させてくれたじゃないですか! こんなのおかしいです!」
「それは俺の力じゃない。磨けば光るお前達という選手がいたからだ」
ジャパンシリーズ三連覇は決して容易いものではなかった。プレミアリーグには、十二チーム最大の戦車を保有する呉アイアンサイズや、T-72を装備した苫小牧ヴォーロスといった、強豪がひしめいている。
彼らに勝ち、宇都宮チェンタウロスや横浜アヴァロンズら精鋭と戦いジャパンシリーズ優勝、それも三連覇したことは偉業といってもいいほどだ。
「監督はどうされるのですか?」
八幡ヴァルキリーズの大隊長であり、チームの主柱である西住まほの指摘に、宮崎は「どうしようか悩んでいる」とつぶやいた。
「いっそのこと、海外で戦車道を勉強するというのも悪くないな。それで、向こうのチームで勉強して、今度は新しいチームでお前達とジャパンシリーズを戦うというのもありだ」
「冗談はやめてください!」
宮崎が座るデスクに向けて、エリカは右拳を振り落とした。
「監督がいなかったら、私は永遠に二流の選手で終わっていました。ボランティア活動で、私達の試合を見て、応援してくれるファンの人達と出会えたから、私は変われたんです」
地域密着型のチームを作るべく、宮崎がやったことは八幡ヴァルキリーズがある北九州市を中心に積極的なボランティア活動を行った。
特に、病院や介護施設を率先的に回ったことは、子供達に戦車道への憧れを与え、介護施設では家族そろって戦車道を応援してくれるファンを獲得することが出来た。
それ以上に選手達には、自分達を知って貰い、多くのファンとふれあうことで、戦う為のモチベーションを与え、どれほど劣勢な状況におかれても、そして苦戦しても諦めない、粘り強さと高い士気をもたらすことができた。
「私みたいに戦いたいって、それで手術を受けて戦車道をやりたいっていう子供達がいるんです。そんな子供達や応援してくれるファンがいなかったら、私はずっと自分のことしか考えない、一人よがりな選手で終わっていました」
この三年で大きく変わったのは逸見エリカだ。病院、特に難病や何かしらの疾患を抱える子供達を慰問し、戦車道をやりたくてもやれないという子供達を支えると同時に、自分のプレーで勇気を持てたと、手術や治療に挑むと言ってくれたファンの声援を受けて、彼らに恥じない戦いとチームを作ることに腐心した。
学生時代は、能力はともかく、短気で怒鳴りやすいことで人望という面では乏しい選手であり隊長であったが、ファンとの交流の中で、チーム全体のことを考えて戦い、チームメイト達の面倒を見るようになり、一個中隊で一個大隊に匹敵すると喧伝されたシュナップス中隊を作り上げた。
「それも俺の力じゃないな。お前は自分で考えて答えを見つけた。そして、自分で成長した。俺がやったのはヒントを与えただけだ」
当初ボランティア活動にエリカは「そんな暇があれば練習したい」と言い出すほどだった。だが、やりたくても戦車道をやれない子供達の存在が彼女を変えた。
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