ハーメルン
「平和的」独裁者の手放せない相談役
第15話:疑念


「ヒューバーズ、あの男にだけは、決して油断してはならないぞ」

 底知れない人心掌握の技巧に、リアレは恐怖に近い感情を抱いていた。今までこんな感情など、経験したことがない。

「アシュベルド・ヴィーゲンローデのことですね」
「そうだ。こうして実際に会ってみてよく分かった。あの男は、人の形をした野心だ」

 リアレは知らず生唾を飲み込む。

「恐ろしい男だ。あの男は何ものにも束縛されない。だからこそ、何ものも敬わず、何ものにも満足しない。人にも、神にも、栄誉にも、支配にも。彼は冷え切った、氷山の浮かぶ極北の海のような目をしていた。あれほどまでに全てに退屈したような目を、私は見たことがない。それなのに、氷海の底にはどす黒い野心が暗い業火のように燃えているのだ」

 だが、ここでリアレははたと気づく。いったい、自分は何を言っている? この自分が、日没を知らぬ帝国の王女ともあろうものが、あの野心を肥え太らせた独裁者の前身如きを恐れているのか? まるで幼女のように? そのようなことなど、絶対にあってはならない! 帝国の未来のためにも、ここで相手の手中にはまってはならないのだ!

「あの男は必ず大総帥の座を狙う。だが、その程度で満足するはずがない。タカの爪は続いて帝国へと伸びるはずだ。私はそれを阻止しなければならない」

 リアレはその手を強く握りしめ、決意をはっきりと口にする。

「アシュベルド・ヴィーゲンローデ。貴君の野心がどれほどのものか、確かめさせてもらうぞ……!」


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