第3話:血族
この通り、御伽衆という仕事は真っ当ではない。言わば権力者の影に控える者たちだ。燕雀寺という家は代々それを行ってきた。その末裔である私も、ご覧の通り海外の権力者の傍らに仕えているのだが。アシュベルドとは幼少の時にほんの数回会っただけなのだが、なぜかこうして彼に招かれ、私は月の盾で長官直属の客員として働いているのだ。
「それだけ君が皆にとって魅力的なんだろう」
私は彼にそう返答する。傍耳として傾聴を仕事とする御伽衆だが、だからといって無言でただ聞いているだけではない。話し手が求めているのは何を言ってもうなずくだけの張り子のトラではなく、会話の応酬ができる聴き手なのだから。それにしても、大総帥とは大きく出たものだ。
今、連邦の政治のトップに立つのは大統領である。しかし、何らかの非常事態が発生した場合、大統領は辞任し、議会は解散し、すべての権力が特定の個人に集中するシステムがある。その個人こそ、大総帥と呼ばれる存在である。一応任期は決められているが、大総帥は自分の権限で任期を無期にすることも可能だ。早い話が、独裁者の片道切符だな。
そして大総帥になれば、晴れて連邦の諸問題が一気に双肩にのしかかってくる。各州の税金の不平等、南部穀倉地帯の不作、北東の二つの州の長年にわたる因縁、流浪の民なれど優秀なある民族への差別、北部工業地帯の環境汚染、海を挟んだ帝国とそれに付随する列強の内政干渉。まさに大総帥の座とは、毒蛇と毒虫がいっぱいに詰まった壺に等しい。
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