第6話:論破
(ちょ、長官がお怒りですっ! 私がキャリアーとあんなノン・プロフェッショナルなティーチングをしていたからだああああ!)
徹底したリアリストにして、成果主義者。それがミゼルの知るアシュベルドの顔だ。その姿は恐怖を感じると同時に、彼女にとっては人間的にも経済的にも完璧だった。彼の演説を生で聞いたその日以来、ミゼルにとってアシュベルドは理想の体現者となった。だからこそ、彼女は大手金融機関の内定を蹴って、この月の盾に就職したのである。
それなのに、今まさに自分は長官の目の前で無能さを晒しているのだ。自分の醜態に、ミゼルは猛烈に拳銃で自分の頭を撃ち抜きたくてしょうがなくなる。
「貴公が今するべきことは、私に自分の行動の理由を事細かに説明することかね?」
だが、まるで彼女の自殺願望を見抜いたかのように、アシュベルドは間髪入れずに質問する。
「いえ、違います!」
「では、何だね?」
そう問われ、ミゼルは頭から自殺の誘惑を振り払い、必死で考えを巡らせる。
「月の盾の職員として、感染者の確保と、被害者の保護と治療です!」
何とか形になった返答に対し、アシュベルドは氷のような視線を変えない。
「そのとおりだ。速やかに事に当たりたまえ。私は月の盾を預かる者として、貴公の一挙一動に関心を払っている」
「は、はいっ!」
彼女にはよく分かる。失態を演じた部下を即座に切り捨てるのではなく、汚名返上の機会を与えて奮起させ、組織に役立てる。人材を代替可能な駒として見る合理的観点だ。
(次こそは必ずコーポレート・ガバナンスに沿ったアクションをお見せいたします!)
この時より、ミゼルはますます月の盾とアシュベルドに心酔するのだった。
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