新しい名前
神速を使い五分と掛からず山を下り。ホテルを見つけて部屋を取ろうとしたはいいが、残念ながら持っているのは日本の通貨。国は分からずとも日本ではないことは確かだ。急ぎで銀行に走ろうとしたところ、店主であるおばちゃんが金は要らないよと無償で部屋を貸してくれた。
少女をベッドに寝かせて、おばちゃんが昼の残りだと言って渡してきたスープを食べながら黒歌と話していた。
「はぐ!にしてもこの子どうするにゃ」
黒歌は猫の姿のまま、スープに入っていたお肉をほぐしたものを食べながらベッドで眠る少女に視線を移す。
「見つけちゃったんだからしゃーないだろ」
「好奇心は猫を殺すっていうから厄介事にならないと良いにゃ」
そもそもあの施設はなんだったんだ。
「教会だから悪魔祓いを育てる施設兼教会だったのかもしれないにゃ」
悪魔祓い?それってあれか、映画とかに出てくる悪魔を斬ったり、撃ったりするそういうバトったりするタイプの悪魔祓いかと聞くと黒歌はコクリと頷いた。
育成する施設がどうやったらあの地獄絵図を作り出すんだか。
子供の死体だけじゃなくて大人の死体があるか、血痕があったなら種族間の争いがあったと思えるけどそんなものは無かった。使われたのは毒、普通に考えて何かヤバイことをして知ってしまった子供の口封じだろう。
「悪魔、天使、堕天使がいて。教会は悪魔祓いで。しかも教会の関係者は腐ってる可能性が高いと……俺の世界の方が難易度高いけど、こっちの世界は難易度低めのクソゲーかよ」
スープを飲み干して空になった器を机に置く。
「どっちにしろはぐれ悪魔を狩って金を稼ぐにしても、何処かで情報を手に入れる必要があるな。黒歌はどうする俺は勝手知ったる日本へと渡ろうかと思ってるんだけど、日本なら教会も少なそうだしこの子にとっても良いだろ」
「私は涼についていくにゃ、妹も探さないといけないし」
「妹?ってああ、この前言ってたな白音だっけか。いいさ、裏関係の酒場なら情報は色々と入ってくるだろ。互いに持ちつ持たれつってことで今後ともよろしく」
「にゃん」
俺が握手するように手を差し出すと黒歌は手の代わりに尻尾を差し出してきた。周りから見ると俺が黒猫の尻尾をいじっているようにしか見えないけど。
おばちゃんに空になったスープのお椀を返しに行き、帰ってくると少女は目を覚ましたようで上半身を起こして膝の上で黒歌を撫でていた。
「あ、えっと、その……」
「お帰り涼、起きたみたいにゃ」
「見れば分かるわ」
しまったな水でも貰ってこれば良かったな。
椅子を動かしてベッドの近くに移動させる。
「俺は神無月涼、そっちが黒歌な」
「えっとイシルスです、それで私は死んだはずじゃ……」
今までの経緯を軽く説明するとどうも俺と黒歌の憶測は合っていたらしい。正確にはあの施設は聖剣使いを育てる施設で、研究者が言うには自分たちは失敗作だったそうだ。つまり、彼女たちは口封じに殺され、彼女は運よく俺が駆け付けた時まで息があったということだ。
涙を流すイシルスにカッコよくハンカチでも渡してやりたいところなのだが、そんなものはないので水を貰いに行くついでにおばちゃんにタオルを貰ってきた。
「水とこれタオルね」
「ぐす…ありがとうございます」
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