ハーメルン
ロアナプラにてドレスコードを決めましょう
10 パトロン

──その後、彼は『また来る』と言い残して出て行った。
 一人となった瞬間、私は力が抜けてその場にへたり込んだ。

 銃を二回も突きつけられて生きているなんて、あまりにも運が良すぎる。
 逆に運が悪すぎるのか。

 この街に来てから一年。
 故郷である日本を捨ててなんとか生きてきた。
 まさか、ここにきてこんな目に遭うとは。

 

 深呼吸をして、今生きていることを実感する。

 

 もし、本心を言わずに嘘の理由を言っていたら。
 

 もし、断った直後すぐに男が引き金を引いていたら。

 
 そう考えるとぞっとする。

 私は、彼に『生かされた』。
 そして、『タダで服を渡さない』と約束した。
 
 これらは紛れもない事実だ。
 守らなければ今度こそ殺されるだろう。

『約束は守らなければならない』

 自身の言葉が頭によぎる。

 きっと、あのマフィアからもう逃げられない。

 なら、やれるだけやってみるしかない。
 私にはそれしかできないのだから。



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 ──そう決心した日から一週間経ったが、以前と何も変わらない。
 元々「人に服を渡すこと」自体が滅多にないのだから当たり前なのだが。

 特にやることもなく暇を持て余しているので、今はそれに合うスカートの型紙を製作中だ。
 デザインから型紙製作など一からすべて1人でこなすため、一つの服を作るのに少々時間がかかってしまうが、その時間が安らぎなのだ。

 服を仕立てる中、気がかりなのは収納場所も提供すると言われたが、あの言葉は本当なのだろうか。
 別に期待している訳じゃない。
 ただ、自分が作った服を燃やしている時が少しだけ心が痛むだけだ。

 黙々と作業をしていると、ドアからノックの音が聞こえた。
 その後、聞き覚えのある声が飛んでくる。

「俺だ、いるなら開けてくれ」

 私は作業を中断し、ドアに向かう。
 ドアを開けると、一週間ぶりに会う彼がいた。

「やあキキョウ。調子はどうかな?」

「調子はまあまあです。それで、どうされたんですか張さん」

 ずっと立たせている訳にもいかないので、家に招き入れる。
 また来るとは言っていたが、まさか一週間後に来るとは思わなかった。

「そう急かすなよ。どうせなら、ゆっくりお茶でも飲みながら話をしたいものだ」

「ココア、牛乳、お湯、水しか出せませんがそれでいいなら」

「コーヒーはないのか?」

「……今度買っておきますね」

 一応、大事な取引相手なのでコーヒーぐらいは買っておこう。
 我儘だ、と思ったことは心の中に留めておく。

 張さんが座るための椅子を自室へ取りに行った後、作業台の上を少し整理する。
 彼が椅子に座ったのを確認し、自分の椅子に腰かける。

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