夕立という少女
「………。」
扉の隙間から執務室を覗き込む。
中では、時雨が提督の執務を手伝おうとしているところだった。
「……」
何であの人たち書類の山を取り合ってるんだろう
というか、雷達は何をしているんだろう。
暫く眺めていると、取り合いも決着がついたのか
物凄く渋い顔で時雨に山を分ける男。
時雨はその顔を盗み見て、幸せそうに笑うと、
書類仕事を進め始めた。
『君が提督のことを気に入らなくてもいい。
無理に好きになるなんて、きっと彼も望まないだろうからさ。でも、一度自分の目で確かめてみたらどうかな、前任と同じなのか、違うのか。
それで何も感じなかったら僕も何も言わないさ』
時雨の声が蘇る。
「人間なんて皆同じっぽい。
…夕立は騙されないんだから。」
男を睨み付けながら、一人、呟いた。
「なーにをしておるんじゃ御主は…」
後ろから声をかけられ、
思わず大きな声を出しそうになる。
慌てて背後を見ると、
怪訝そうな瞳で此方を見る初春が。
「…提督の監視っぽい。」
答えると、彼女はやれやれ、
といった様子でため息をつき、ついてこい、といったジェスチャーをした。
言われるがままについていくと、
やがて執務室の隣の部屋、会議室に入っていく。
「…何してるっぽい?」
「ふんぬぅ…まぁ…見ておれ…!!」
ズズズ、と本棚を動かす初春を見ていると、
その後ろから黒いガラスが現れた。
執務室が丸見えだ。
…というか時雨、執務中にチラチラ提督を見ては涎っぽいのを垂らすの辞めなさい。
「無論、此方側は向こうからは見えん。昔ここにいた妖精の特殊加工じゃ。これなら監視もしやすかろうて」
初春はそのまま会議室から去っていく。
「…ありがと。」
「クク、これで少しは変わると良いがの」
立ち止まらずに出ていく初春の背中を見送り、
再び…相変わらずブスッとした顔で執務を続けては、雷達の子守りをする男の方へ目をやった。
特に問題もなく執務は進む。
時おり暁が涙目になり、必死で提督が慰めていたが、本当に問題もないまま夜になった。
そろそろ御飯時だ。
渋る駆逐艦たちを部屋から半ば強引に追い出した男は、何度も廊下に誰もいないことを確認し始める。
「………」
何をする気だ?
ずっと見ていると、
…男はとんでもない行動に出た。
男が引き出しから出したのは大量の書類の山。
まるで無限に入っているかのように、
山単位の書類が何度も出てくる。
あっという間に綺麗になった机全てを書類が埋め尽くすと、男はふぅ、と息をつき、頬を叩いた。
「…」
時雨が手伝ったんじゃないのか。
なんだあの量の書類は。
そこで、男はポケットから"白い粉"を取り出す
「…ッ!?」
一瞬"その手の粉"かと思ったが、ラベルにはご丁寧に塩、と大きく書かれており、男はソレを指で掬い、ペロペロと舐めると満足そうな表情を浮かべた。
いや、なんだその幸せそうな顔は。
そんなに塩が好きなのか…?
まぁ、好きでやっているのなら、と思った瞬間
彼のお腹がぐーぐーと鳴る。
「…弁えろ馬鹿。アイツらに聞かれたらどうするつもりだお前は…」
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