理解者
深海双子棲姫、シロとクロが目を覚ました午後。今回の来客は明日の午前中から来るということで、その準備に勤しんだ。準備と言ってもある程度工廠なり談話室を片付ける程度。日頃の雷の家事のおかげで、皆で手分けしてちょっと入念に掃除をするくらいで済んだ。
私、若葉も当然その掃除に参加。朝のランニングが頓挫した分を取り戻すように、掃除で体力を使うことに。
シロとクロは丸一日は安静にするという話だったが、怪我の後遺症もなくあまりにも健康体だったため、医務室での軟禁期間を短縮し、掃除終了後にこちらも終了。今後は医務室ではなく、私達と同様に私室を与えられることになる。
2人は常に一緒にいたいらしく、部屋は1つでいいと志願。飛鳥医師もそれを了承した。深海双子棲姫がそういう存在であることは今までの言動である程度わかる。それをわざわざ離す必要もない。
「あとは服だが……回復が早すぎて間に合ってないぞ。それに、深海棲艦の服だなんて手に入れようがない」
検査着のままで生活してもらうのは流石にまずい。とはいえ、何も着ないわけにはいかない。ここに運び込んだ時に着ていたものは、処置の際に廃棄している。そもそも怪我のせいで破損しており、着れたものではなかったし。
「なんでもいいよ」
「……」
2人とも興味なさげ。だがそれだといろいろと面倒事が増える。ただでさえ明日には来客があるのに、この格好のまま客前に出てもらうわけにはいかない。
すぐに渡せそうなのは、私や雷の運動着だろう。体格的には私や雷が丁度いいくらいであり、これなら制服より替えが利く。枚数も多い。
ということで着替えてもらった。私と雷のものでもサイズが丁度いいくらい。心機一転といった感じで、興味なさげだった2人も初めての服には少し高揚していた。
「こう見ると、本当に深海棲艦には見えないわ」
「な。頭にフィンみたいなもんが付いてるくらいで、あたしらと同じじゃねぇか」
おそらく、頭に付いたフィンのようなものは、深海棲艦特有の『角』ではないかと飛鳥医師が予想している。処置中にいろいろと調査し、しっかりと頭に食い込んでいたのだとか。とはいえそんなところはもう気にならない。
そして翌日。朝食後に施設に到着するということで、ほんの少し慌ただしい朝。提督という役職を持つ人間がやってくるというのは、それだけでも緊張するのだが、ただでさえ苦手な人種なので余計に悪化している。
今から来る提督は、私の知っている唯一の提督とは別人。飛鳥医師以外にも、雷や摩耶の反応からして、私にしたようなことはしないような人間だ。それに、あの文月達を束ねる鎮守府の長なのだから、尚のこと信用できるはず。
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