ハーメルン
継ぎ接ぎだらけの中立区
差し伸べられる手

私、若葉を確認するため、飛鳥医師の旧友であり理解者である来栖提督が、遠征部隊の第二二駆逐隊を引き連れて施設にやってきた。
提督という存在にいい印象のない私だったが、来栖提督は信用するに値する人間であると思う。直感のみでシロとクロの存在を察知し、その姿を見ても臆せず、さらには友好的に接した。それだけでも人柄がわかる。
ただし、とにかく外見で損をしている。それだけは残念。

飛鳥医師と来栖提督は込み入った話があるということで、私達は自由な時間となった。前回の鋼材搬入とは違い、今は本当に何もない時間。あの時は出来なかった雑談も出来そうである。
そのため、艤装をその場に置いてもらい、鎮守府として運用されていたときから残してあるという談話室に場所を移した。元々この元鎮守府は10人ほどの人数を想定して作られていたため、今の人数でちょうどいいくらいに。

「うちの司令官、強面だから勘違いされやすいんだよね」
「すんごい有能な司令官なんだけどねぇ」

皐月と水無月が揃って話す。あの提督の下で活動している艦娘がそういうくらいなのだから、本当に有能な人なのだろう。言動は荒っぽいが、文月達第二二駆逐隊はしっかりと信頼している。

「おかげで誰も死んでないしな」
「だよね〜。あたし達も、安心して出撃出来るもんね〜」

文月達は、来栖提督の部下となってそれなりに時間が経っているそうだ。雷が施設の一員になる前に浜辺の清掃を手伝っていたのだから、1年近くの付き合い。むしろそれ以上。
それだけ長く付き合っていれば、あの人の人柄なんて痛いほどわかるだろう。先程のほんの少しの時間で、私があの人のことを信用出来ると思えたくらいなのだ。特に文月は、鎮守府創立の最初期からの付き合いらしい。

「いい鎮守府なんだな」
「うん! ボクらの最高の居場所だよ!」

力強く答える皐月。それだけ鎮守府に愛着があるのだろう。

「あたしら勧誘されたんだぜ。怪我が治ったら来栖提督のとこに配属しないかって」
「そうそう。でも断っちゃった」

摩耶も雷も、来栖提督からの勧誘を受けていた。あの提督ならやりそうなことだ。
艦娘としての矜持を果たすのなら、この施設より鎮守府に所属した方がいい。戦う力を持ったのだから、それを使い侵略者を撃退する。それが私達の生きる意味だ。
だが、2人共それを突っ撥ねてしまった。雷はまだしも、摩耶まで。言っては悪いが、摩耶はその性格から戦いに身を置くのが好きそうに見えた。だが、鎮守府よりもここを選んでいる。

「だって、先生放っておけないんだもの。私が家事する前なんて酷かったのよ! ご飯は三食冷凍食品で、お掃除も出来てないから埃まみれで! お風呂が半分物置になってたんだから!」
「ここって一応改装したんだよな。それでそれか」
「ほとんど書類とかばっかりだったんだけど、片付けないで適当に置いてるからどんどん溜まっていっちゃったんだと思うわ。だから、私が全部片付けてあげなくちゃって思ったの」

雷はこの施設を片付けるために残ったという。そもそも世話好きな性格もあり、飛鳥医師の生活習慣改善に尽力したのだとか。掃除洗濯から始め、料理も覚えて、結果が今に至る。艦娘としての仕事が1つも出来ない代わりに、家事万能の戦力へと成長した。この施設の台所事情を一手に引き受ける、一番重要なポジションに立つ者。

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