差し伸べられる手
「あたしも似たようなもんだな。ほら、こいつらに掃除頼んでたわけだろ。あたしらの場所なんだから、あたしらが何とか出来るようにしねぇとってよ。こいつらだっていつも来れるとは限らねぇ」
「だから艤装の整備を覚えたのか」
「ああ。センセは人間だし、雷はそのままだと非力だろ。だから覚えたんだ。今後やっていくためには必要だと思ってな」
摩耶もどちらかと言えば面倒見のいい性格だ。片付けをサポートするために残り、それが大正解だったようだ。流れ着いた艤装を運ぶことも出来、覚えた技術で分解することで資金源にも出来た。それに、思っていたより楽しかったというのが一番大きかったのだとか。工作巡洋艦摩耶は、その時に生まれたと自分で話す。
「お前も多分勧誘されるぞ。どうすんだ?」
「若葉は……」
私はどうするべきなのだろう。
ここから離れ、来栖提督の下で働くのもいいかなと思っている。来栖提督なら、私が前に受けたような仕打ちなどしてこず、戦力として、艦娘として運用してくれるはずだ。私は持っている力を使って世界の平和に貢献したい。
だが、この施設にも愛着が湧いている。まだ短い時間ではあるが、雷と摩耶、そして飛鳥医師と生活を共にし、艦娘とは言いづらいが楽しく生きている。飛鳥医師との雑務や浜辺の清掃、それにトレーニングだって、私を毎日を輝かせてくれる。
どちらも私には魅力的な場所だった。だが、どちらも取るということは出来ない。
考えて、考えて、考えて、今の自分に一番いい選択をしたい。
「ワカバ、すっごい悩んでるね」
「……うん……悩んでる」
シロとクロに言われ、現実に戻されるような感覚。考えていたら周りが全く見えなくなっていた。それだけ私には迷う選択肢である。
そして、答えを出した。
「……若葉もここに残る。どちらも魅力的だが、今はこちらの方が居心地がいい」
本心からの言葉だ。いくら信用出来る提督がいて、友人とも言える第二二駆逐隊が所属しているとしても、今の私にはまだ鎮守府という場所には僅かに抵抗があるというのもある。また、それ以上にこの施設での順風満帆な生活が手放せないくらいに大切になっていた。
戦場に出て戦いたい、この手で平和に貢献したいという気待ちは、まだ当然残っている。それでも、居心地の良さはここの方が上な気がした。
「すまない。魅力的な提案を突っ撥ねてしまって」
「それでいいと思うよ〜。若葉ちゃんが決めたことだもんね〜」
「こっちに来たかったらいつでも来ていいしね」
後々でも大歓迎と言ってくれる。万が一のことがあれば頼らせてもらおう。何事も無いと思うが。
機会さえあれば、見学くらいはさせてもらいたいかもしれない。本来の鎮守府というものがどういう雰囲気なのかを知りたい。
「クロちゃんとシロちゃんは〜?」
「私達はさすがに勧誘されないでしょ。艦娘じゃないんだし」
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