2人の艤装
来栖提督からの申し出を断り、施設に残ることを決めた私、若葉。鎮守府に所属し、艦娘としての矜持を全うすることも考えたのだが、今の私には飛鳥医師の下で活動する方が居心地がいいと感じたからだ。私はこの施設で、楽しく生きる。たまに会うくらいが丁度いい。
シロとクロが施設の一員となり数日。その間にも浜辺を探し続け、深海双子棲姫の艤装が流れ着いていないかを確認していたが、嵐どころか雨も降らず、浜辺は綺麗なものであった。2人だけを行かせるのはさすがに難しいので、私が保護者のようについていっている。念のため艤装も装備。
「やっぱり無いねぇ」
「……うん」
私が普段ランニングで向かう方、2人を発見した浜辺とは逆方向に行ったのだが、やはり見つからない。流れ着かない場所に沈んでしまったのかもしれないが、私達は潜水艦では無いので海の中はさすがに探すことが出来ない。
2人は一応潜水艦ではあるものの、艤装が無いと潜ることが出来ないらしい。人間でいう酸素ボンベが艤装に備え付けられているらしく、それが無ければ息が続かないとのこと。代わりに、艤装さえあれば無限に潜れるのだとか。
「潜ることが出来ないから八方塞がりだよ。これだけ見て流れ着いてないなら、もうこれは沈んでるとしか思えないんだよなぁ。見つけて施設に持って帰れたら、マヤが直してくれるんだよね?」
「おそらく」
「ならマヤに任せたいなぁ。そのためにはまず見つけなくちゃ。でも、見つけるには潜れなくちゃダメで、潜るためには艤装が無いとダメで、艤装は見つけなくちゃダメで、見つけるには……ああもう! ループし始めちゃった!」
頭を抱えてしまった。クロがそんなことを言っている間も、シロはボーッとした目で海の方を眺めている。浜辺だけではなく、海底の方も視野に入れているみたいだが、やはりなかなか見つからないようだ。
「これはもうマヤに即席で作ってもらう?」
「……クロちゃん……私達は艦娘の艤装は使えないよ……?」
「そうなんだけどさぁ」
ソナーがあれば多少なり探せるかもしれないが、摩耶に聞いたところそれは流れ着いていないとか。また、あったものは全て来栖提督の鎮守府に持っていってもらっているため、ここには残っていない。
ここにあるのは、あくまでも力仕事用に整備された、主機のみの艤装だけだ。武器と言えるものは1つも無い。あったところで、先程の通り、全て来栖提督の鎮守府に渡っている。
こういう活動はしているし、私達のような艦娘が滞在している施設ではあるが、鎮守府ではないので当然非武装である。むしろ持っていたら罪に問われる可能性だってある。
「この前のオッチャンに頼るしかないのかぁ」
「……そう……だね。潜水艦で探してくれるって……言ってたもんね……」
今の私達は、それに頼るしか無かった。それでも見つからなかったら、諦めて施設に永住を決めるとのこと。
何とも複雑な気分である。本人達のためには見つかってもらいたいものだが、そうなると施設を出て行くため、少し寂しくなってしまう。だからといって見つからないことを望むのも違う。
「今日は帰ろっか」
「……うん。また明日……もう少し遠くに」
「だねぇ。アレがないと落ち着かないしね」
艤装探しはまだまだ続く。もしかしたら、次の嵐の後に流れ着くかもしれないし、来栖提督の鎮守府が見つけてくれるかもしれない。
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