夜の海
その日の夜、夜間警備のためにみんなが寝静まった時間に出撃した私、若葉率いる第五三駆逐隊。摩耶引率の下、施設近海をゆっくりと回りながら見て回る。これを一晩中繰り返すことで、近海に何者かが来てもいち早く対応するのである。
あまり早く動き過ぎると、終わった頃には酷い疲労感に襲われることになる。曙は平気な顔をしそうなものだが、雷と三日月が厳しい。ペース配分も考えて、監視の目を怠らない。
一度やっているためわかってはいることなのだが、やはり真っ暗闇の海というのは慣れない。戦闘中はいろいろと興奮しているために気にならないのだが、今この静かな空間だと、恐怖すら感じてしまいそうになる。
そもそも私達は、嵐の夜戦で死に掛けたという大きなトラウマがある。ここ最近はそこまで気にならなくなってきたが、こうも静かだと意識してしまうものだ。眼の力を使うために殿を務める三日月も、少し意識してしまったか、私と手を繋いでの航行になっている。
「時間にして半分。一回休憩すっか」
「了解」
時間はおおよそ丑三つ時。摩耶の提案で一度施設に戻り休憩をする。訓練とはまた別の形の疲労感だが、数分の休憩で次の周回に入れるようになる。
今の施設は、工廠以外は電気も消えている真っ暗闇。その工廠も、そこまで煌々と照らされているわけではない。用意しておいた甘味と飲み物で軽く腹を満たし、再び夜の海へと出て行く。
「来ないなら来ない方がありがたいわ」
「んなもんアタシもそう思ってるぜ」
ボヤく曙に対して摩耶も話す。おそらく全員同じ。援軍も見込めない現状、完成品との戦いは熾烈を極めるだろう。撃破まで行けずとも、撃退までは持っていきたい。が、そこに辿り着くまでに酷いことになる可能性も捨てきれない。
無傷の勝利が出来るならいいが、そんな楽な相手ではないことくらい、誰もが痛いほど理解している。事実痛かった。
「防空は摩耶に任せるしか無いんだが」
「おう、最初はアタシが防ぎ切る。途中からは巻雲も来るし、リコやセスだって航空戦が出来るからな。どうにか施設に被害が出ないように踏ん張るぜ」
今このメンバーの中で、対空砲火が出来るのは摩耶しかいない。私は言わずもがな、他の3人も高射砲や両用砲を持っているわけではないので、艦載機相手だと回避以外にすることが無くなってしまう。
追加で装備を作っておく余裕も無かった。パーツも施設の修復や増築に使われているし、そもそも高射砲のためのパーツがあまり無かったらしい。摩耶の物を新規で作るのと、巻雲のものを修理するので使い切ってしまったとか。
「アタシが耐えている間に本体をやってもらう。そこは全部任せるぜ。ただ、問題は鳥海も来た時だ」
「空を撃ってる最中に摩耶さんが狙われちゃうわよね。それはダメ、私が摩耶さんを守らなくちゃ!」
「水鉄砲なら物ともせず突っ込んでくるわよ。うまいこと足止めしないと」
そもそも空襲が来るかもわからない。どう攻めてくるかはあちら次第である。だが、今のうちにどう戦うかは決めておくのもいいだろう。
だが、時間は待ってはくれなかった。おおよそ丑三つ時、この時点でそろそろだと勘付くべきだった。
いつも襲撃はこの辺りの時間帯。みんな寝静まり、一番熟睡しているであろうタイミング。夜間警備をしていなかったら、施設崩壊で全滅のこの時間に、三日月が空を見上げた。
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