調査隊
双子棲姫の艤装が半分ほど完成し、潜水試験を行なっていたときのこと。海の底まで潜航したシロとクロが、そこで何人もの艦娘の死体を発見した。それは私、若葉を含むこの施設に属する艦娘のように浜辺に漂着することが出来ず、流されている最中に息絶えてしまった者だった。
潜水試験はその時点で中止。その話を聞き体調を悪くしてしまった三日月には雷と浮き輪の1体が付き添う。他もひとまず片付けて、自分の持ち場に戻ることになった。
だか、事が事だけに空気が重い。あのクロですら無言だった。
飛鳥医師はこの現状をすぐに来栖提督に連絡。中立区の海底に艦娘の死体が数多く眠っているという情報を聞くと、すぐに調査隊を結成して調査を始めると同時に供養してくれると話してくれたそうだ。
どういう経緯で海の底で眠ることになってしまったのかは調査次第だろうが、せっかく見つけることが出来たのだ。深海棲艦のエサにならなかったのだから、ちゃんとした葬いをお願いしたい。
「明日、朝から来栖の鎮守府からの調査隊が近海を訪れる。来栖本人も直接指揮をとるらしくてね。こちらの鎮守府にも顔を出すかもしれないから、そのつもりでいてくれ」
体調が戻った三日月も込みでの夕食時、明日からのことを少し話してくれた。事前に言っておけば、三日月とセスは万が一の心積もりが出来る。特に三日月は、提督という役職には敏感だ。相手がどんなに優しい人間でも、姿を見ただけで襲い掛かろうとしてしまうかもしれない。あの見た目に向かっていく勇気があれば、だが。
「……絶対顔は合わせません。部屋に引きこもります」
「外の人間や艦娘は無理……フミツキとかならまだいいけど」
先に話をされたおかげで、しっかり自衛をしてくれるようだ。あとは念のため、エコと浮き輪を部屋に匿っておいてもらえれば、何も問題は起きないだろう。来栖提督はそういうことも勘付いてしまいそうで怖い。
翌日、早速調査隊が来ていた。工廠からは辛うじて見えるか見えないかの境目くらいに大発動艇がいくつか浮かんでいる。来栖提督はあのどれかに乗り込んでいるのだろう。
遠目に見ても、大急ぎで調査しようとしているのが見て取れた。今回の事件は、あちら側としても問題が大きすぎる。
「……今頃、引き揚げられてるのだろうか」
「さぁな。あたし達には艦娘の供養ってのがわからねぇ。来栖提督なら悪いようにはしないと思うけどよ」
私と摩耶は工廠で艤装整備中。嵐の時に流れ着いたものの分解と洗浄は全て終えているため、自分のものや他の艤装の洗浄をしつつ、今あるパーツで組めるものは組み上げていく。どういう形であれ、今私達の出来ることといえばこれくらいである。
三日月は宣言通り浮き輪達を連れて自室に引きこもり、雷はいつも通りの家事。セスもエコと一緒に引きこもり、シロクロはそれに付き合っている。実質、今働いているのは私がこの施設の一員になった直後のフルメンバーという程度。
「ここで治してやれればいいんだが」
「流石にそいつは無理な話だな」
わかっているが言わずにはいられなかった。私達のように、ここにある深海棲艦のパーツを繋ぎ合わせれば生き返る……とかなら、意地でもサルベージに参加するというのに。
「いくらセンセでも死んだ奴を生き返らせるのは無理だ。あたしらは命があったから繋いでもらったわけだからな」
「……そうだな」
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