しばしの別れ
曙が施設に住まう最後の夜は、医務室から出て全員で夕食を食べた。ある意味お別れ会。だが今生の別れではない。必ず元凶である鎮守府に落とし前を付けさせ、笑顔で戦勝報告をしに帰って来てくれる。みんなそれを信じて疑わない。勿論この私、若葉もである。
顔を合わせるかとが難しいと思われた三日月も、この時ばかりはしっかり同席した。セスは一度心を開けば苦手意識は飛ぶらしい。そのため、全員揃った食事会も何事もなく終了。
「雷のご飯を食べるためにも、また絶対戻ってくるわ」
「うんとご馳走作ってあげるわ!」
「楽しみにしてる」
ヒトの身体を持って一番痛感したのが、その食事の文化だ。美味しい料理はモチベーションアップに大きく繋がる。雷の料理は格別に美味しいため、それを実感出来た。
「最後くらいはお風呂に入っていくわよね。ずっと拭くだけじゃダメだもの。新しい門出を前に、ちゃんと綺麗な身体にしなくちゃね」
「そうね。使わせてもらうわ」
「なら私が背中流してあげるわ! 頼って頼って!」
すっかり仲が良くなった雷と曙。医務室にいる間はずっとお世話をしていたというのもあるが、雷と曙は特型という駆逐艦の括りで姉妹的な関係もある。そういうところからも相性が良かったのかもしれない。
こうして曙がこの施設にいる最後の夜が更けていく。来栖提督の到着は明日の朝。つまり、曙の出発も明日の朝だ。たった3日間とはいえ、ここまで来るともう仲間のようなもの。別れるのは少し寂しい。
翌朝。朝食後には来栖提督が施設に到着。今回は護衛の艦娘もつき、曙を護送することになる。
昨日夕雲が突然訪れたことは、来栖提督の下にも連絡が行っている。あの時は素直に帰投したように見えたが、また来る可能性は高い。今度は確認ではなく襲撃として。
正直なところ、あちらはまだこの施設を疑っているだろう。曙の艤装を整備していた時点で、目を付けるに越したことはない。そもそも帰投するという言葉すら信じられない。
「万が一のことを考え、曙にゃ大発動艇の積荷っつー扱いになってもらうが、良かったか?」
「それが一番安全ってなら従うわよ。艤装と一緒に積み込まれるってことよね」
「ああ。ちょいと暑苦しいかもしれねェが、我慢してくれい」
大発動艇にはブルーシートがあり、そこに艤装共々隠すような形で積載する。ここから来栖提督の鎮守府まではそれなりに時間があるため、周囲警戒しながらの帰投。また、曙以外にもいくつか艤装を持っていってもらうことでカモフラージュすることも考えている。
護衛部隊は、おなじみ第二二駆逐隊の4人に加え、調査隊で隊長を務めていた羽黒と、もう1人。
「秘書艦まで出張らせて大丈夫だったか?」
「なァに、こういう時だからこそ必要なんだよ。周辺警戒は任せりゃいい。なァ、鳳翔?」
「はい、お任せください。現在も警戒中で、周囲に敵性の反応はありません」
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