白黒の双子
飛鳥医師が詳細は後から調べておくから今の名目上の呼称が欲しいと言う。カルテを残しておくにしても、名前が無いのは後々大変だ。それに、私達もこの2人をどう呼べばいいか。
「タシカ……シンカイフタゴセイキ……ッテ、イッテタ」
「アー、ソンナコトイッテタネ。アレ、ワタシタチノコトダッタンダ」
深海双子棲姫。それが人間側が決めたこの2人の名前らしい。
後々わかることだが、この2人、本当に2人1組の深海棲艦らしく、艤装も2人で1つを使う、おそろしくレアな個体だそうだ。今までの言動と、色だけ違う似た外見から、『双子』と銘打たれたのだろう。
だが、その名前もカルテには書けない。飛鳥医師はあくまでも1人1人の固有名称が欲しいと言っている。2人1組だろうが、同一個体だろうが、患者としては2人いる。カルテは2枚なのだから、名前も2つ必要だ。
「ナンデモイイヨ。ソッチデカッテニキメレバ」
「なら暫定で黒と白だ」
「単純すぎやしないか。ペットじゃあるまいし」
「イロハの順で番号振るよりはマシだろ」
「似たようなものだと思う」
ネーミングセンスは無いようだが、当の本人達は気に入ったようだ。
「アネキ、ワタシ、クロダッテ!」
「シロ……シロ……?」
ケラケラ笑う妹と、静かに名を噛み締めている姉。今までどういう生活を送ってきたかは知らないが、文化の違いか、こんなことでも楽しそうに見える。そもそも深海棲艦に娯楽なんてあるのだろうか。ただの侵略者だと思っていたために、些細なことでも興味が尽きない。
「少なくとも今日くらいは安静にしてもらうぞ。今動き出して傷が開いて酷いことになったと言われても困る。ずっと寝てろとは言わないが、この部屋から出るな」
「エー、モウイタクナイヨ」
「じっとしてろ。いいな?」
「ウッス」
ひと睨みでクロが言うことを聞くまでに。随分と深く苦手意識が刷り込まれたようだ。
「大丈夫か? 食費とか」
「その辺りは心配しなくていい。4人で生活していても赤字になっていない。2人増えたところでまだ余裕はある」
先日の深海艤装の件でまた臨時収入があったらしく、安定した収入の方でも私達を養っていくのに余裕なほどはあるらしい。突然貧乏生活というのも無いとのこと。まだ1人2人なら受け入れられるのだとか。本当に謎が多い。
「シロ、クロ、今日から少しの間、君達は僕の仲間だ。よろしく」
「カゾク……カゾク! イイネ、イイネ!」
「ヨロシク……」
ひょんなことから、深海双子棲姫、シロとクロが施設の一員として仲間に加わることになった。手段を探して本来の居場所に帰るまでの一時的な仲間ではあるが、果たしてそんな時が来るのかどうか。
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